プールでの犯罪|痴漢・盗撮・児童ポルノの罪状と刑罰、逮捕された後の流れ
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夏場は主に女性が被害者となりやすい性犯罪が多発する季節です。
愛知県警察では、令和5年8月に女性を対象とした護身術教室を開き、痴漢などに遭った時の対策などについて実技講習を交えながら伝えました。
夏季に犯罪が発生しやすい場所のひとつとして挙げられるのが「プール」です。本コラムでは「プールで起きやすい犯罪」について、どのような行為がどんな罪になり、どういった刑罰を科せられるのか、容疑をかけられてしまった場合の解決法などを、ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスの弁護士が解説します。
1、プールで起きやすい犯罪とは?
過去にプールで起きた犯罪の例としては、以下のようなものがあります。
- プールで10代女児の身体を水着の上から触るなどのわいせつな行為をした疑いで逮捕
- レジャープールで遊泳中の女性に対し、水に潜り小型カメラを指し向けて盗撮しようとした疑いで逮捕
- 屋外プールの女子更衣室に侵入し人感センサー付きの小型カメラを設置して盗撮した疑いで逮捕
このように、プールで最も発生しやすいのは「痴漢行為」や「盗撮行為」です。
当然、プールの管理者側もこれらの犯罪に対する警戒を強めており、監視体制を強化しています。
違法な行為があればただちに警察に通報する体制を取っている施設も多いので、監視員や警備員などに発見されれば事件化を避けることは難しいでしょう。
2、痴漢行為で問われる罪と刑罰
一般的に「痴漢は犯罪」という認識が広まっていますが、実は刑法をはじめとして、どの法令をみても「痴漢」という名称の犯罪は定められていません。
痴漢行為は、迷惑防止条例違反や不同意わいせつ罪などに問われることになります。
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(1)痴漢行為で問われる罪
痴漢行為で問われる罪は、次の二つのいずれかです。
- 都道府県が定める「迷惑防止条例」の違反
- 刑法の「不同意わいせつ罪」
迷惑防止条例は各都道府県が定めている条例であり、愛知県にも「愛知県迷惑防止条例」が存在します。
愛知県迷惑防止条例にも、第2条の2に「卑わいな行為の禁止」という規定があり、公共の場所や公共の乗り物において、人の身体に直接または衣服の上から触る行為が禁止されています。
もう一方の不同意わいせつ罪は、従来までは「強制わいせつ罪」という罪名でした。
令和5年7月13日に施行された刑法の改正によって罪名が変わり要件が拡充されましたが、痴漢行為については「暴行・脅迫」を用いてわいせつな行為をした場合に処罰の対象となるという点で、大きな変更はありません。
ここでいう「暴行・脅迫」は、殴る・蹴るといった暴力行為や脅しの文言を指すのが典型ですが、法的には「相手の抵抗を著しく困難にさせる程度のもの」と解釈されています。
たとえば、年齢・性別・体格などの差や、行為をした時間帯・現場の状況などによっては、明らかな暴力や脅しなどを伴わずにわいせつな行為を行った場合であっても、わいせつな行為そのものが暴行・脅迫と評価されることがあるため、本罪の成立は妨げられない場合もあります。 -
(2)痴漢行為に科せられる刑罰
痴漢行為は、迷惑防止条例違反か刑法の不同意わいせつ罪のいずれかによって処罰されます。
両罪を区別する明確な基準はありませんが、一般的には、わいせつな行為の程度が低い場合には迷惑防止条例違反に、程度が激しい場合には不同意わいせつ罪に問われる可能性が高くなります。
また、それぞれの犯罪に定められている刑罰は下記の通りです。・ 愛知県迷惑防止条例違反
1年以下の懲役または100万円以下の罰金(愛知県迷惑防止条例第2条の2第1項1号に違反した場合)
・ 不同意わいせつ罪
6か月以上10年以下の拘禁刑
拘禁刑とは新たに設けられた刑罰であり、従来は懲役・禁錮の区別があったものを統一して、受刑者の改善更生に向けて効果が高い措置を柔軟に取るための制度です。
令和5年8月の段階で施行日は未定になっています。
令和7年6月17日までのどこかで施行される予定で、それまでは改正前の刑罰が科せられるので、不同意わいせつ罪の法定刑は現時点では「6か月以上10年以下の懲役」となります。
不同意わいせつ罪には罰金刑が定められていないため、不同意わいせつ罪に問われた場合には罰金で済まされる可能性はなく、有罪判決を受ければ刑務所に服役させられること、その期間も最大10年で非常に長いことをふまえると、不同意わいせつ罪は迷惑防止条例違反に比べて格段に罪が重いといえます。
3、盗撮行為で問われる罪と刑罰
痴漢行為と同じく、盗撮についても、「盗撮罪」といった名称の犯罪は存在していません。従来、盗撮行為そのものは迷惑防止条例によって禁止され、盗撮目的の「のぞき」は軽犯罪法違反として、盗撮目的の施設や敷地への立ち入りは刑法の「建造物侵入罪・住居侵入罪」によって処罰されてきました。
ただし、迷惑防止条例では地域によって規制内容に差があったこと、どの法令が適用されても刑罰が軽く厳罰化を求める声が多かったことなどから、新たに「撮影罪」が創設されて、令和5年7月13日に施行されています。
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(1)盗撮行為は「撮影罪」による処罰を受ける
撮影罪とは「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」に定められている犯罪です。
正確には「性的姿態等撮影罪」という名称が用いられています。
撮影罪は、正当な理由がないのに、ひそかに、以下に挙げる姿態(したい)等を撮影する行為を処罰の対象にしています。- 性器や肛門、その周辺部、臀部(でんぶ)、胸部といった人の性的な部位
- 下着などの姿のうち、性的な部位を直接もしくは関節に覆っている部分
- わいせつな行為または性交等がされている間における人の姿態
迷惑防止条例を適用するには、公共の場所や乗り物、不特定・多数の人が利用する場所といった要件を満たす必要がありましたが、撮影罪は「撮影行為」そのものが処罰の対象であり、場所の要件がありません。
たとえば、プールで遊泳する特定の人を対象にして、性器・肛門・尻・胸といった部分に焦点を当てて撮影すると、撮影罪に問われることになるのです。
また、撮影罪では迷惑防止条例には定めがなかった「未遂」を処罰する規定も設けられました。
たとえば、盗撮しようと試みたもののカメラを差し向ける前に発見され、取り押さえられたといったケースでは、実際に撮影をしていなくても未遂として処罰を受けます。 -
(2)撮影罪の罰則
性的姿態等撮影罪の罰則は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。
愛知県迷惑防止条例違反が適用された場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金なので、撮影罪の新設によって罰則が3倍に強化されたことになります。
4、児童の水着姿や裸を撮影すると「児童ポルノ製造罪」
盗撮行為で問われる可能性があるのは撮影罪だけではありません。
撮影対象が児童にあたる場合は「児童ポルノ製造罪」に問われる危険があります。
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(1)児童ポルノ製造罪とは?
児童ポルノ製造罪は「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(児童ポルノ禁止法)」に定められている犯罪です。
18歳未満の児童による性交や性交類似行為、児童が他人の性器を触る行為や他人が児童の性器を触る行為、衣服の全部または一部を着けない児童の姿態でことさらに性的な部位が露出・強調されており性欲を興奮・刺激するものを描写したものは「児童ポルノ」に該当します。
18歳未満の児童を対象に、遊泳中の水着姿などを撮影すると児童ポルノ製造罪に問われる可能性が高いでしょう。
また、更衣室で着替えをしている途中の姿などをひそかに撮影すると、児童ポルノの「盗撮製造罪」に問われる可能性もあります。 -
(2)児童ポルノ製造罪の罰則
児童ポルノ製造罪の罰則は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金です。
この点は盗撮製造罪が適用された場合も変わりがありません。
罰則の重さは撮影罪と同じですが、児童を対象とした性犯罪はとくに悪質だと評価されやすいので、厳しい刑罰が科せられる危険は高いといえます。
5、痴漢・盗撮などの容疑で逮捕されるとどうなる? 刑事手続きの流れ
以下では、痴漢や盗撮といった犯罪の容疑をかけられて警察に逮捕された場合の、刑事手続きの流れを解説します。
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(1)逮捕・勾留による最大23日間の身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、警察の段階で48時間以内、検察官の段階で24時間以内、合計で72時間を上限とした身柄拘束を受けます。
この期間は、自宅に帰ることも仕事へ行くことも許されないうえに、たとえ家族が相手でも面会さえ許されません。
逮捕による身柄拘束が認められるのは最大72時間ですが、ここでさらに検察官が「勾留」を請求して、それを裁判官が許可すると、10日間の身柄拘束を受けます。
10日間では捜査を遂げられなかった場合は、一度に限り10日以内の延長が可能なので、勾留の上限は20日間です。
勾留が決定すると、面会などが禁止される「接見禁止」の条件がつかない限り、家族などとの面会が許されるようになります。ただし、自由な行動は許されず一般社会から隔離された状態が続くため、勾留が長引くと社会復帰が難しくなってしまうおそれがあります。
会社からの解雇、学校からの退学、家族との離散といった大きな不利益を避けるためには、身柄拘束の回避や早期釈放を目指す必要があります。
被害者との早急に示談交渉を行う必要もあるため、弁護士に依頼して穏便な解決を図りましょう。 -
(2)検察官が起訴・不起訴を判断する
勾留が満期を迎える日までに、検察官が起訴や不起訴を判断します。
「起訴」とは刑事裁判を提起すること、「不起訴」とは起訴を見送るという処分です。
起訴されると、それまでは犯罪の容疑をかけられている「被疑者」という立場から刑事裁判を受ける「被告人」という立場に変わり、さらに勾留を受けて拘置所に移送されることになります。
被告人としての勾留にも1か月の期限がありますが、刑事裁判が続く限り何度でも延長可能であるため、「保釈」されない限り、刑事裁判が終了するまで釈放されません。
長期の身柄拘束や厳しい刑罰を回避するには、不起訴を目指すことが最善です。
不起訴を目指すためにも被害者との素早い示談交渉が必要になるため、痴漢行為や盗撮行為をはたらいた方は、速やかに弁護士に相談してください。 -
(3)刑事裁判で有罪判決が言い渡されると刑罰を受ける
刑事裁判では、証拠をもとに裁判官が審理を進めて、最終回の日に有罪か無罪かの判決が言い渡されます。
有罪判決が言い渡される場合には、法律が定める罰則や法定刑の範囲内で量刑が判断されて、刑罰が下されることになります。
刑罰の軽減を実現するためには、被告人にとって有利となる事情を証拠とともに示すことが大切です。
たとえば、「被害者に対する謝罪や弁済を尽くして許しを得ている」「二度とわいせつ犯罪を行わないために医学的な治療を受けることを誓約している」といった事情が認められれば、言い渡される刑罰を軽減しやすくなります。
どのような事情が被告人にとって有利な事情となるのかの判断は、法律の知識や経験のない個人では困難であるため、弁護士のサポートは必須となります。
6、まとめ
痴漢行為や盗撮行為は、法律によって厳しく処罰される犯罪です。
プールはこれらの行為に対する監視の目が厳しい場所であるため、管理者や監視員などの巡回によって発覚し、逮捕される危険は高いでしょう。
また、防犯カメラによる追跡などの捜査によって後日逮捕される可能性もあるため、たとえその場で身柄を確保されなくても安心してはいけません。
もし、痴漢行為や盗撮行為をはたらいたという自覚があり、逮捕や刑罰を避けたいと望むなら、積極的に解決を図ることが大切です。
すでに被害者からの申告によって警察が捜査を進めているかもしれないので、できるだけ早く弁護士に相談して、解決に向けたアクションを起こしましょう。
プールにおける痴漢行為や盗撮行為の解決は、ベリーベスト法律事務所にご依頼ください。
刑事事件の解決実験豊富な弁護士が、示談成立や不起訴を目指すための対応を行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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