自転車に乗るときヘルメットをかぶるのは義務? 罰則はあるのか
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愛知県警察が公表する「愛知県の交通事故発生状況(令和3年中)」によると、令和3年の自転車乗車中に起きた交通事故による死傷者数は5743名でした。前年比でマイナス205名を記録しており、また、死者数も11名減少して18名の結果となっています。
全国でも自転車施策の先進的な取り組みを行うものとして知られている愛知県では、令和3年4月1日に「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」が施行されました。
この条例では、自転車利用者に対して新たなルールを課すことで、交通事故の防止と被害の軽減を図っています。
本コラムでは、愛知県で新たに施行された「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」の内容や、自転車の運転に関する罪と処罰されるおそれがある行為について、ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスの弁護士が解説します。
1、大人も子どもも自転車乗車時にはヘルメットを!
原付・自動二輪車といったバイクを運転する際は、法律によってヘルメットの着用が義務付けられています。いわゆる「ノーヘル」と呼ばれる行為は警察官に現認されれば取り締りを受けてしまうので、あえてヘルメットを着用しないライダーはほとんどいないでしょう。
しかし、公安委員会による運転免許が不要な自転車の場合、ヘルメットを着用している利用者は少数です。この現状が、自転車事故の被害を重大化させている原因だといえます。
子どもだけでなく、大人も自転車を利用するときはヘルメットを着用しましょう。
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(1)自転車事故でもっとも危険なのは「頭部」
交通事故を調査・分析し、悲惨な事故防止のために役立つ情報を発信している公益財団法人「交通事故調査分析センター」によると、自転車事故の被害軽減にヘルメットが重要な役割を果たすことが明らかになりました。
自転車事故に遭って死亡・重傷に至りやすいのは「頭部」を負傷したときです。警察庁が公開している「令和2年における交通事故の発生状況等について」で確認すると、ヘルメット非着用の自転車事故で死亡した人の56%が頭部を損傷しています。
頭部を事故相手となった自動車の外板や硬い路面に打ち付けてしまうと、頭蓋骨骨折・脳挫傷といった生命にかかわる重傷に至る危険が高いのは間違いありません。 -
(2)着用するだけでなく「正しい着用」が大切
交通事故調査分析センターの調査では、ヘルメット非着用の場合と「着用して事故に遭い、ヘルメットが脱げた場合」と「ヘルメットを着用して事故に遭い、ヘルメットが脱げなかった場合」の死亡率を比較しています。
実は、ヘルメットを着用していても事故時に脱げてしまうと死亡率にはほとんど変化がありません。一方で、事故に遭ってもヘルメットが脱げなかった場合の死亡率は、非着用のときと比較すると4分の1に軽減されます。
つまり、死亡・重傷を防ぐには、単に「ヘルメットを着用すればよい」のではなく「ヘルメットを正しく着用する」ことが大切です。適切なサイズのものを選び、深くかぶってあごひもをしっかりと締め付けましょう。
誤った着用法としてよく見られるのが次の2つです。- あごひもを留め具で留めていない
- 浅くかぶっておでこが出ている
このような着用をしていると、事故時にヘルメットが脱げてしまう、転倒時に前から突っ込んでしまいヘルメットよりも先に頭を地面に打ち付けてしまうといった被害につながります。
2、愛知県の「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」で定められたこと
愛知県が施行した「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」では、新たに2つのルールが設けられています。
いずれも令和3年10月1日から施行しています。
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(1)自転車の乗車用ヘルメット着用
条例では、第11条において、道路における自転車利用時は乗車用ヘルメットを着用するよう努めなければならない旨が規定されています。年齢などの制限はないので、子どもだけでなく大人もヘルメットを着用するのが新たなルールです。
なお、このルールは自転車を利用する本人だけでなく、未成年者を監護する保護者や重要員に自転車を利用させる事業者にも適用されます。
「ヘルメットを正しく着用すること」という呼びかけや教育が大切です。 -
(2)自転車損害賠償責任保険への加入
第13条には「自転車損害賠償責任保険等」への加入義務が規定されています。
加入義務を負うのは次に挙げる者です。- 自転車利用者本人
- 自転車利用者の保護者
- 自転車を事業の用に供する事業者
- 事業の用に供する自転車の利用者本人
ただし、これらの者以外が保険等への加入措置を講じている場合は問題とはなりません。このルールは、自転車が加害者となった事故で重過失致死傷罪が適用されるケースが多発し、賠償額も多額となってしまう事例も増加しているために設けられたものです。
自転車が加害者になってしまうケースでは、無保険状態であったため被害者が必要な治療費などの賠償を受けられないといったトラブルが起きていたため、被害者保護を目的に規定されました。
3、違反への罰則は? 努力義務とは?
愛知県の条例では、ヘルメットの着用と自転車損害賠償責任保険への加入の努力義務が規定されています。
では、これらに違反するとどうなるのでしょうか?
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(1)どちらも罰則は設けられていない
条例第11条「乗車用ヘルメットの着用」と第13条「自転車損害賠償責任保険等への加入」には、罰則が設けられていません。つまり、違反しても懲役や罰金といった刑罰が科せられることもなければ、違反点数や反則金が科せられることはないということです。
ヘルメット着用と保険加入は、いずれも「努力義務」とされているからです。 -
(2)「努力義務」の意味
法律や条例の条文に「~するよう努めなければならない」と表現されているものは「努力義務」と呼ばれます。
努力義務とは、積極的に努力することを義務付けながらも法的拘束力や罰則を設けないことを意味する用語です。規定に従う、従わないの判断は当事者に任せられていますが「罰則はない」というだけで「守らなくても問題がない」わけではありません。
努力義務にとどまる背景には、法律やルールの激変を緩和する措置としての性格もあります。
今後は努力義務ではなく「義務」となって罰則が追加されることも考えられると心得ておき、何よりも悲惨な事故の被害から身を守るためにも、ヘルメット着用と保険加入に努めましょう。
4、自転車でも違反行為で逮捕されることがある?
愛知県では自転車利用時のヘルメット着用・保険加入が条例による努力義務となっているため、違反したからといって逮捕されることはありません。
ただし、自転車であっても悪質な違反があれば逮捕されるケースがあります。
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(1)飲酒運転
道路交通法第65条1項は、すべての運転者に対して「酒気を帯びて運転すること」を禁止しています。これは「車両等」の運転者を対象としているため、自転車であっても除外されません。
ただし、酒気帯び運転の罰則を規定している同第117条の2の2第3号は「軽車両を除く」とされています。つまり、飲酒運転をしてもアルコールの基準値を超えていることだけを理由に罰則の対象となっているわけではありません。
自転車による飲酒運転で逮捕されるのは、アルコールの程度にかかわらず、アルコールの影響で正常な運転ができないおそれがある場合に限られます。アルコールの影響で正常な運転ができないおそれがある状態を「酒酔い運転」といい、同第117条の2第1号の規定に従って5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる重罪です。 -
(2)あおり運転
令和2年6月施行の改正道路交通法で新設された「妨害運転罪」は、危険なあおり運転を取り締まるための規定です。
道路交通法第117条の2の2第11号に掲げられている10類型のうち7つの行為は取り締まりの対象となります。- 対向車線にはみ出しての逆送
- 不必要な急ブレーキ
- 車間距離の不保持
- 進路変更禁止違反
- 追い越し禁止違反
- 執拗にベルを鳴らす
- 幅寄せ運転や蛇行運転
全国でも自転車によるあおり運転で書類送検される事例が多数報告されており、悪質なケースでは逮捕されることもあるでしょう。実際に、対向車線の車に近づくなどの容疑で自転車を運転していた男が令和2年10月に逮捕された事例は大々的に報道されました。
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(3)違法自転車の検査拒否
道路交通法第63条の10第1項には「自転車の検査」が規定されています。
これは、内閣府令で定める基準に適合した制動装置を備えていない「ピスト」と呼ばれる競技用の自転車などを道路で運転していた場合に適用される規定です。同63条の9第1項において運転が禁止されており、警察官から停止を求められた場合は制動装置についての検査に応じなければなりません。
5万円以下の罰金が定められていますが、単に違反しただけで逮捕される可能性は低いものと考えられます。ただし、5万円以下の罰金という軽微な犯罪でも、現場で住居や氏名を明かさない場合や逃亡を図るおそれがある場合は現行犯逮捕される危険があります。
5、まとめ
愛知県では条例によって自転車利用時のヘルメット着用が努力義務とされています。年齢などの制限はないので、子どもだけでなく大人でもヘルメットを着用するよう努めなければなりません。
わずらわしく感じてしまう方も少なくないかもしれませんが「ルールだから」と考えるのではなく「万が一の事故から身を守るため」と考えれば、たとえ努力義務だとしても遵守するのが正解でしょう。
ヘルメット着用をはじめ、自転車損害賠償責任保険への加入といったルールも導入されていますが、これらに違反しても罰則はありません。とはいえ、市中を自転車で走っていると、警察官に呼び止められて指摘されることも考えられるでしょう。
自転車の利用に関するルールで疑問に感じることがあったり、違反行為による逮捕・刑罰に不安を抱えたりしている方は、ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスまでお気軽にご相談ください。
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