免責許可決定とは? 自己破産を認めてもらうための条件や流れ
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裁判所が公表する「令和3年 司法統計年報(民事・行政編)」によると、令和3年に名古屋地方裁判所に申し立てのあった破産事件の件数は、3419件でした。
自己破産というと、借金の返済ができなくなった人が借金をゼロにしてもらうための手続きだと考えている方が多いでしょう。そのような理解も間違っているわけではありませんが、借金の返済義務をなくすためには、裁判所から「免責許可決定」を受ける必要があります。
本コラムでは、自己破産を認めてもらうための条件や免責許可決定までの流れについて、ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスの弁護士が解説します。
1、免責許可決定とは? 自己破産が認められる3つの条件
免責許可決定は、どのようなものなのでしょうか。最初に、免責許可決定の概要と自己破産が認められる3つの条件を説明します。
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(1)免責許可決定とは
免責許可決定とは、裁判所が債務者の借金の支払い義務を免除するため、その決定を下すことです。
自己破産をすれば、借金がなくなると考える方もいるでしょう。しかし正確には、自己破産をして、裁判所から免責許可決定を受けることにより、借金の返済義務が免除されます。 -
(2)自己破産が認められる条件
自己破産をして免責許可決定を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
① 借金の返済が困難な状態であること
裁判所に自己破産の申し立てをして、破産手続き開始の決定を受けるためには、破産者が支払不能の状態にあることが必要です。
支払不能とは、破産者の財産や収入だけでは、すべての債務を支払うことができない状態をいいます。
支払不能にあたるかどうかは、破産者の財産・収入、借金総額などを踏まえて裁判所が判断しますが、借金総額を3年で返済することができるかどうかがひとつの目安です。
② 免責不許可事由がないこと
自己破産の申し立てをしたとしても、一定の事由がある場合には、免責を受けることができません。このような事由のことを「免責不許可事由」といいます。
破産法252条1項で規定されている免責不許可事由には、以下のものがあります。
- 浪費、FX、ギャンブルなどによる借金の場合
- 財産を隠したり、勝手に贈与を行ったりした場合
- 特定の債権者に対して優先的に弁済した場合
- 収入を偽るなど、相手をだまして信用取引をした場合
- クレジットカードの現金化など不当に債務を負担した場合
- 破産管財人の調査に協力しなかった場合
- 裁判所からの質問を無視または虚偽の回答をした場合
- 債権者一覧表を偽造した場合
- 帳簿などを隠した場合
- 破産管財人の業務を妨害した場合
- 過去7年以内に免責を受けたことがある場合
③ 非免責債権に該当しないこと
自己破産では、裁判所から免責許可決定を受けたとしても免責されない債権があります。このような債権を「非免責債権」といいます(破産法253条)。
非免責債権にあたるものとしては、以下のものがあります。
- 各種税金
- 社会保険料
- 子どもの養育費
- 重過失の交通事故を起こした場合の損害賠償金
- 刑罰による罰金
2、免責許可決定後には何が変わるのか
ここからは、免責許可決定を受けることによって、どのような変化が生じるのかを解説します。
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(1)借金の返済義務がなくなる
裁判所からの免責許可決定が確定すれば、借金の返済義務がなくなります。
そうすると、これまで借金の返済で苦しかった生活からも解放されるでしょう。
また、免責許可決定によって債権者からの取り立てもなくなりますので、安心して生活を送ることができます。 -
(2)官報に掲載される
「自己破産をして免責許可決定を受けた」という内容は、官報に掲載されます。
官報に掲載されることによって、自己破産をしたということが第三者に知られる可能性が生じますが、官報をチェックしているのはごく一部の人だけですので、職場や友人などに知られる可能性は低いでしょう。 -
(3)ブラックリストに登録される
自己破産をしたら、信用情報機関の事故情報として登録されます。これがいわゆる「ブラックリスト」と呼ばれるものです。
金融機関やクレジットカード会社などは、個人から融資やクレジットカードの申し込みがあった場合、信用情報機関に照会して当該個人の支払い能力を審査します。信用情報機関に事故情報が登録されていると「支払い能力がない」と判断され、新規の融資やクレジットカードの申し込みは断られてしまうことがあるでしょう。
ただし、ブラックリストの登録は無期限で行われるのではなく、一定の期間が経過することで信用情報は回復します。免責許可決定の確定後、5年から10年が経過すれば再び借金をしたり、クレジットカードを持ったりすることができるようになるでしょう。 -
(4)破産者としての制限が解除される
破産者は、自己破産の手続き中だと一定の職業に就くことが制限されてしまいます。また、自己破産手続き中は、旅行や引っ越しなどをする際には裁判所の許可を得た上で行わなければなりません。
しかし、免責許可決定を受ければ破産手続きは終了するため、このような破産者としての制限は解除されます。
3、免責許可決定が下りるまでの流れと期間
3章では、免責許可決定が下りるまでの流れと期間について説明します。
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(1)管財事件の場合
管財事件とは、破産管財人が選任される自己破産手続きのことです。
破産者に一定以上の財産がある場合には、それをお金に換えて債権者への配当を行う必要があります。また、破産者に免責不許可事由がある場合には、免責許可決定をすべきかどうかを調査しなければなりません。
このような場合には、裁判所によって破産管財人が選任され、破産手続きが進められていきます。
管財事件となった場合の流れは、以下のとおりです。① 自己破産の申し立て
自己破産の申し立て準備が整った段階で、裁判所に自己破産の申し立てを行います。
② 破産手続開始決定
裁判所による申し立て書類のチェックをクリアすれば、裁判所から破産手続開始決定が出ます。申し立てから破産手続開始決定・破産手続廃止決定までは、2週間程度かかります。
③ 破産管財人の選任
管財事件では、破産手続開始決定と同時に破産管財人が選任されます。管財人は、裁判所の管轄内の弁護士が担当するのが一般的です。
④ 破産管財による財産調査や換価業務の実施
破産管財人は、破産者の財産調査を行い、債権者への配当を行うために財産の換価を進めていきます。
⑤ 債権者集会
破産手続開始決定から約3か月後に債権者集会が開かれます。債権者集会では、破産管財人から財産調査の状況や換価状況についての説明がなされます。その後も換価業務を続行する場合には、約3か月に1回のペースで債権者集会が開かれます。
⑥ 債権者への配当
財産の換価によって配当可能な財産が形成された場合には、債権者への配当を行います。
⑦ 免責審尋
債権者への配当が終われば破産手続きは終了となり、引き続き免責を認めるかどうかの審尋が行われます。
⑧ 免責許可決定
免責審尋が終了してから、1週間程度で裁判所が免責許可決定を出します。
⑨ 免責許可決定の確定
免責許可決定から1~2週間程度でその内容が官報に掲載され、その後2週間が経過すれば免責許可決定は確定となります。
なお、管財事件になった場合には、事件の内容によって異なってきますが、破産申し立てから約6か月から1年程度で破産手続きが終了します。 -
(2)同時廃止事件の場合
同時廃止事件とは、破産管財人が選任されることなく破産手続き開始と同時に破産手続きが廃止される事件のことです。
破産者に破産手続きの費用を支払うだけの財産がないことが明らかである場合には、コストをかけて管財事件にする意味がありませんので、同時廃止事件として処理されることになります。
同時廃止事件となった場合の流れは、以下のとおりです。- ① 自己破産の申し立て
- ② 破産手続開始決定、破産手続廃止決定
- ③ 免責許可決定
- ④ 免責許可決定の確定
なお、同時廃止事件の場合、順調にいけば自己破産の申し立てから免責許可決定の確定までは、3~4か月程度になります。
4、自己破産の手続きを弁護士に依頼するべき理由
借金の返済ができず自己破産をお考えの方は、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)債権者からの取り立てがストップする
弁護士に自己破産手続きを依頼すると、弁護士から各債権者に対して受任通知を送付します。受任通知とは、弁護士がついたことを債権者に知らせる書面です。
受任通知が債権者に届いた後は、債権者から債務者に対する直接の取り立てが一時的に禁止されます。
また、その後の債権者とのやり取りはすべて弁護士が行いますので、平穏な生活を取り戻すことができるでしょう。 -
(2)自己破産手続きをスムーズに行える
自己破産の手続きは、申し立てにあたって準備すべき書類が膨大であり、漏れなくそろえるためには、経験豊富な弁護士のサポートが不可欠です。
本人で申し立てを行うこともできますが、ほぼ確実に管財事件に振り分けられてしまいますので、高額な予納金を負担しなければなりません。
そうなれば、弁護士に依頼した場合と費用負担は変わらなくなるでしょう。
申し立ての手続き負担を減らしながらスムーズに手続きを行うためにも弁護士に依頼をすることをおすすめします。 -
(3)免責不許可事由に該当していても裁量免責が受けやすくなる
免責不許可事由に該当する事情がある場合には、原則として免責許可決定を受けることができません。
しかし、免責不許可事由に該当する事情があったとしても、裁判所が破産手続開始決定に至った経緯など一切の事情を考慮して「免責が相当である」と判断した場合には、例外的に免責を受けることが可能です。これを、裁量免責といいます。
免責不許可事由に該当する事情があったとしても、免責が相当であることを弁護士から丁寧に裁判所に伝えることで、裁量免責を受けることができる可能性が高くなるといえるでしょう。
5、まとめ
自己破産の申し立てをして裁判所から免責許可決定を受けることができれば、借金の返済義務が免除されます。免責許可決定を受けるには一定の条件をクリアする必要がありますので、まずは弁護士に相談をすることがおすすめです。
借金の返済についてお悩みがある方は、ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスまでお気軽にご相談ください。
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