養育費は手書きの誓約書でも問題ない? 公正証書のメリットを紹介
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豊橋市には、養育費確保支援助成金制度があり、養育費などの内容を取り決めて強制執行認諾条項を入れた公正証書を作成するための費用を市が助成してくれる制度があります。
しかし、公正証書の作成はハードルが高いと感じ、誓約書を手書きにする方向で検討している方もいらっしゃるでしょう。では、手書きの誓約書であっても、約束が守られなかった場合には、養育費の支払いを請求することは可能なのでしょうか。
この記事では、養育費について手書きの誓約書を作成した場合の効力や問題点、作成の際の注意点、さらに公正証書を作成するメリットなどについて、ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスの弁護士がわかりやすく解説していきます。
1、養育費について手書きで誓約書を作成しても問題ないの?
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(1)合意が確認できれば有効な契約書となる
養育費について、手書きの誓約書で作成していても、夫婦それぞれの合意が確認できる場合には、有効な契約書として効力を有することになります。
ただし、契約とは2人以上の意思が合致したことによって成立する法律行為ですので、原則として夫婦それぞれの署名と押印が必要となります。
誓約書や念書といった場合、夫婦の一方の署名・押印しかなく書面を確認しても双方に合意が成立していることがわからないケースがあります。このような場合には、事後的に相手方から合意内容を争われてしまうおそれがあります。 -
(2)誓約書には執行力がない
養育費の支払いについて誓約書を作成していたとしても、法的な執行力はありません。
そのため、相手が誓約書や念書で合意された養育費の支払いを怠った場合、直ちに強制執行をすることはできません。この場合、まず民事裁判を起こして勝訴判決を得る必要があります。
2、養育費について手書きで誓約書を作成する際の注意点
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(1)法的に意味のある条件を記載する
養育費について手書きで誓約書を作成する場合には、法的に意味のある条件が記載されていることが重要です。
たとえば、養育費の金額については、誓約書で明らかになっている必要があります。「できるだけたくさんの養育費を支払うように誓約する」など、履行すべき義務の内容が大ざっぱであったり曖昧・抽象的であったりする場合には、義務の内容が確定しないため相手方に支払いを請求することができません。
養育費の支払いを請求するためには、誓約書に以下の内容を記載しましょう。- 月々の養育費の支払金額
- 養育費の支払期間
- 養育費の支払期日
- 支払方法
養育費の支払いは、未成熟の子どもが経済的・社会的に自立するために必要となる様々な経費のことです。したがって、毎月支払うことが求められます。
養育費の期間については、子どもが経済的・社会的に自立するまでとすることが一般的です。具体的には、「満20歳に達する日の属する月まで」や、大学卒業予定の「満22歳に達した翌年の3月まで」などと記載しておく必要があります。
支払いの期日については、「毎月末日まで」などのように明確な期日を指定しておく必要があります。
支払いの方法については、親権者の指定する金融機関口座に振り込んで支払う方法が指定されることが一般的でしょう。
また、作成した誓約書については作成直後にコピーをとって、事後的に内容を書き換えられないようにしておくことも重要です。 -
(2)公正証書により養育費の合意をしておく
公正証書とは、公務員である公証人が作成する公文書です。公正証書で養育費の合意をしておくことで、合意書を「債務名義」とすることができます。
債務名義とは、債務者に金銭の支払い義務を強制的に履行させる手続き(強制執行)を行う際、公的機関がその旨を記し作成した文書のことを指します。
具体的には、以下のような公文書が債務名義となります。- 確定判決、仮執行宣言付判決
- 和解調書、調停調書
- 仮執行宣言付支払督促
- 執行認諾文言付公正証書
次から、公正証書を作成するメリットについてさらに詳しく解説していきましょう。
3、養育費について公正証書を作成するメリット
前述の通り、公正証書とは、公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書のことをいいます。
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(1)合意内容について争われる可能性が小さくなる
公正証書は公文書であるため、文書の真正(本物であること)について強い信頼性があります。
また公正証書は、公証人が各当事者の目の前で内容を確認しながら作成するものですので、事後的にその内容を争うことは難しくなります。
また、文書の内容については公証人が、誤解が生じないような明確な文章で作成することになるため、文書の解釈をめぐって後日当事者間で争いが発生する可能性も少なくできます。
このように公証人が当事者からの依頼に基づいて作成した公正証書については、相手方からの反対の立証がなされない限り、完全な証拠力を有しています。
また、公正証書となった文書は当事者に交付されますが、公証役場に原則として20年間保管されているため、紛失したとしても内容を確認することができます。 -
(2)裁判手続きを経ないで強制執行ができる
公正証書に、一定額の金額の支払いに関する合意が記載され、かつ「執行認諾文言」が記載されている場合には、即強制執行の手続きをとることができます。
執行認諾文言とは、「債務者が金銭の支払いをしないときは、直ちに強制執行に服する」旨の文です。この記載と養育費の金額が明示されている場合、金銭債務の不履行があったときは裁判手続きを経ることなく直ちに強制執行をすることができます。
この強制執行をすることができる公正証書のことを「執行証書」といいます。 -
(3)相手への心理的プレッシャーが大きい
上記のように公正証書は、高い証拠力や証明力を有しており、記載内容を争うことが難しく、かつ不履行があった場合にはすぐに強制執行をすることができる強力な文書です。
したがって、養育費の支払義務者である相手方への心理的なプレッシャーが大きく、合意された内容を適切に守ってくれる可能性が高まります。
4、養育費について公正証書を作成する方法
公正証書は、公証役場に行けば即日作成することができるというものではありません。事前の準備や、満たしておく条件などがあります。
以下では一般的な公正証書の作成方法について解説します。
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(1)養育費について記載した離婚協議書を作成する
まずは、養育費について合意した有効な離婚協議書を作成する必要があります。
夫婦が離婚する場合には、財産分与、慰謝料、子どもの親権者とあわせて、養育費に関する取り決めがなされることが一般的ですが、これらの離婚条件を書面によって確認したものを、一般的に「離婚協議書」といいます。
離婚協議書には、上記の条件のほか、面会交流、慰謝料の支払いなどについても記載しておくことができます。
後日の争いを避けるためには、離婚条件について漏れなく合意しておくことが重要であり、有利に離婚手続きを進めるためにも、離婚協議書の作成は弁護士に依頼することがおすすめです。弁護士に交渉を依頼しておけば、ご自身の希望に沿う内容で合意の取り交わしができる可能性が高まります。 -
(2)公証役場の予約
離婚協議書を作成できたら、公証役場に連絡・訪問して公正証書を作成したい旨を伝え、担当の公証人を割り当ててもらいます。なお、直接公証人を指名することもあります。
公証人または公証役場の職員に、作成したい公正証書の内容を伝え、必要に応じて内容の協議を行います。作成がスムーズに進むように関係資料を事前に送付することもあります。
作成当事者と公証人の予定をあわせて、公正証書の作成日時の予約をとります。身分証明書や実印など作成当日に必要な持参物を確認しておくことが重要です。
弁護士にご依頼いただいている場合、公証役場とのやり取りや公証人との事前打ち合わせを弁護士が行うため、よりスムーズに公正証書を作成することが可能です。 -
(3)当日、公正証書を作成する
公正証書作成当日、公証役場を当事者の2人で訪問し、公証人のもとで公正証書を作成します。
相手方が作成当日に現れず、公正証書が作れないというトラブルもまれに発生していますので、お互いの待ち合わせ方法やスケジュールについては、適切にすり合わせておくことが重要でしょう。
5、まとめ
養育費の支払い合意については手書きの誓約書で作成しても問題はありません。しかし、養育費が約束どおりに支払われない場合には、強制執行をすることができないため、別途養育費支払調停・審判などを申し立てて債務名義を取得する必要があります。
一方で、執行認諾文言を付した公正証書を作成しておけば、そのような裁判手続きを経ることなく、すぐに強制執行手続きを進めることができます。
公正証書を作成するためには、有効な離婚協議書案を作成する必要がありますので、養育費や離婚問題の実績がある弁護士に相談することがおすすめです。
ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスには、離婚トラブルの解決実績がある弁護士が所属しています。まずは一度お話しをお聞かせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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