公正証書遺言があっても遺留分を請求できる? 遺留分請求について解説
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厚生労働省が公開する「令和3年 人口動態統計(確定数)の概況」によると、令和3年に愛知県で亡くなった人は、7万3769名とのことでした。
被相続人が死亡した場合、その方の遺産は、相続人による遺産分割協議によって分けることになります。しかし、被相続人が遺言書を作成していた場合には、遺産分割協議よりも遺言が優先されることになるため、遺言書の内容に従って相続財産を分けていくことが必要です。
もっとも、遺言書の内容が相続人の遺留分を侵害するような内容であった場合、遺留分を侵害されている相続人は遺留分侵害額請求をすることによって、侵害された遺留分に相当するお金を取り戻すことができます。
では、遺言書が公正証書遺言の形式で作成されていた場合にも、遺留分侵害額請求をすることができるのでしょうか。今回は、公正証書遺言がある場合の遺留分侵害額請求の可否について、ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスの弁護士が解説します。
1、公正証書遺言と遺留分について
公正証書遺言がある場合の遺留分侵害額請求が可能かどうかを理解するためにも、まずは、公正証書遺言と遺留分の基本事項を押さえていきましょう。
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(1)公正証書遺言とは
生前の相続対策に利用される遺言としては、主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があります。
自筆証書遺言とは、その名のとおり、遺言者が全文(財産目録を除く)を自筆で書く形式の遺言書のことです。
自筆証書遺言は、紙とペンと印鑑さえあれば、いつでもどこでも作成することができますので、手軽に遺言書を作成することが可能です。もっとも、遺言書は、法律上厳格な要件が定められているため、形式の不備によって無効になるリスクがあるなどのデメリットもあります。
公正証書遺言とは、公証役場の公証人が作成する形式の遺言書のことです。
2人以上の証人が必要となり、費用もかかるといったデメリットがありますが、形式の不備によって無効になるリスクはありません。また、公証役場で原本を保管してくれるため、紛失や偽造といったリスクも回避することが可能です。
将来のトラブルを回避するという観点からは、専門家である公証人が関与する公正証書遺言の作成が推奨されます。 -
(2)遺留分とは
遺留分とは、法律上相続人に保障されている最低限の遺産の取得割合をいいます。
財産をどのように処分するかは、財産の所有者の自由ですので、特定の相続人に全遺産を相続させる旨の遺言を作成することも可能です。
しかし相続人は、相続が開始した場合には一定割合の遺産を取得できるであろうという期待を有しているため、不公平な内容の遺言書が作成されてしまうと、相続人の期待は大きく害されてしまうことになります。
遺留分は、「相続人の思いを尊重する」「相続人の最低限の生活を保障する」などの観点から定められた制度です。
このような遺留分の趣旨から、遺留分が認められているのは、兄弟姉妹以外の相続人に限られます。兄弟姉妹は、被相続人とは別に独立した生活を送っていることが多いため、遺産相続への期待はそこまで大きくないというのが理由です。
また、各相続人の遺留分としては、以下の割合のとおりになります。父母などの直系尊属のみが相続人である場合 法定相続分×3分の1 偶者や子どもなど、上記以外の場合配 法定相続分×2分の1
2、公正証書遺言があっても遺留分請求することはできるか
自筆証書遺言に比べると厳格な形式である公正証書遺言ですが、公正証書遺言の場合でも遺留分侵害額請求をすることができるのでしょうか。
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(1)公正証書遺言であっても遺留分の請求は可能
公正証書遺言は、公証人が作成する公文書ですので、自筆証書遺言に比べると信頼性が高い文書だといえます。しかし、公正証書遺言や自筆証書遺言は、単なる遺言書の形式の違いに過ぎませんので、遺言書としての効力がそれぞれで異なるということはありません。
したがって、公正証書遺言によって相続人の遺留分が侵害されている場合には、自筆証書遺言の場合と同様に、遺留分侵害額請求を行うことができます。 -
(2)付言事項には法的効力はない
では、公正証書遺言の内容として、遺留分侵害額請求権の行使を自粛するよう求める内容が記載されていた場合には、遺留分侵害額請求権を行使することができるのでしょうか。
遺言書の内容には、法的拘束力を有する「法定遺言事項」と法的拘束力を有しない「付言事項」の2種類が存在しています。
付言事項としては、遺言者が遺言書を作成するに至った経緯や家族への思いなどが記載されますが、遺留分侵害請求権の行使の自粛を求める内容も、この付言事項にあたります。
そのため、公正証書遺言に遺留分侵害額請求権の自粛を求める内容が記載されていたとしても、付言事項に過ぎませんので、遺留分侵害額請求権を行使することが可能です。
3、遺留分侵害額請求を行う場合の手続きと流れ
遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害した相続人に対して遺留分侵害額請求をしていくことになります。その際に行う手続きと流れについて、以下で説明します。
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(1)当事者同士の話し合い
遺留分を侵害された相続人が遺留分侵害額請求をする場合には、まず、遺留分を侵害している相続人に対して、遺留分侵害額請求の意思表示をすることが必要です。
遺留分侵害額請求の意思表示の方法については、法律上特別な方法が求められているわけではありませんので、単に口頭による意思表示でも問題ありません。
しかし、遺留分侵害額請求には、後述するような請求期限があるため、期限内に意表表示をしたことを明確にするべく、配達証明付きの内容証明郵便を利用して行うのが一般的です。
内容証明郵便を送った後は、相手との話し合いによって、具体的な遺留分額や支払い方法などを決めていくことになります。当事者間に合意が成立した場合には、その内容を明らかにするために合意書などの書面を作成するようにしましょう。 -
(2)遺留侵害額の請求調停
当事者同士の話し合いで、遺留分に関する話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停の申し立てを行うことが必要です。申し立てをする裁判所は、請求相手の住所地を管轄する家庭裁判所になります。
2名の調停委員が当事者の間に入って話し合いを進めてくれるのが、調停の特徴です。
当事者だけでは感情的になってしまい、話し合いが進まないようなケースでは、調停を利用することによってスムーズに話し合いが進められる場合もあります。
何度か調停期日を重ねるなかで、当事者同士に折り合いがつけば調停成立となり、その内容が調停調書にまとめられます。
調停調書は、判決と同様の効力を有しますので、相手が約束に反して金銭の支払いをしないという場合には、相手の財産を差し押さえるなどの強制執行の手続きを行うことが可能です。 -
(3)遺留分侵害額請求訴訟
調停も話し合いの手続きであるため、当事者間の対立が激しい事案では、家庭裁判所の調停手続きを利用しても解決できない場合があるでしょう。
そのような場合は調停不成立となり、最終的には、裁判所に対して遺留分侵害額請求訴訟を提起して解決を図ることになります。なお、この場合の裁判所は、家庭裁判所ではなく地方裁判所になる点に注意が必要です。
訴訟手続きは、調停のような話し合いの手続きではありません。
当事者間の主張とそれを裏付ける証拠に基づいて、判断していく手続きになります。そのため、遺留分を請求する相続人は、遺留分が侵害されていることを証拠によって立証していかなければなりません。
遺留分の計算にあたっては、相続に関する知識が求められます。複雑な訴訟手続きを適切に進めていくためには、弁護士のサポートが不可欠といえるでしょう。
遺留分が侵害されていると判明した場合には、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
4、遺留分侵害額請求には請求期限があるので注意
遺留分侵害額請求をする場合には、遺留分権利者(遺留分を侵害されている側)が、相続が開始したこと、および遺留分の侵害があったことを知ったときから1年以内に権利の行使をする必要があります。
この請求期限は、時効ではなく除斥期間であるとされていますので、時効のような完成猶予・更新といった手段によって期間の進行をストップ、またはリセットすることはできません。
請求期限が経過した後の遺留分侵害額請求は認められないため、遺留分の侵害が判明した場合には、すぐに権利を行使する必要がある点に注意してください。
もっとも、遺留分に関する知識がない方では、何から手を付ければよいかわからず、あっという間に時間が過ぎていってしまいます。
自身の大切な相続分を取り戻すためにも、遺留分が侵害されている可能性に気付いた場合には、早めに弁護士に相談をするようにしましょう。
5、まとめ
公正証書によって遺言書を作成したとしても、それによって遺留分の侵害があった場合には、遺留分侵害額請求権を行使することが可能です。
遺留分侵害額請求には、1年という非常に短い期間制限があり、さらに遺留分の計算方法も非常に複雑なものとなっているため、少しでも不安があるという方は、早めに弁護士に相談することが大切です。
遺留分が侵害されていることに気付いた方や遺産相続のことで問題になっている方は、お早めにベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています