立てこもりをすると問われる罪は? 人質の有無で刑罰は変わるのか

2025年02月26日
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立てこもりをすると問われる罪は? 人質の有無で刑罰は変わるのか

近年、立てこもり事件の報道を耳にする機会が増えたという方も多いのではないでしょうか。愛知県でも、2023年に人材派遣会社で従業員を人質とする立てこもり事件が発生しました。

実は、立てこもり罪という犯罪はなく、立てこもりの状況(態様)によって「建造物侵入罪」や「人質強要罪」などさまざまな罪に問われることになります。もし家族が立てこもりの容疑者になってしまった場合、どうしたらよいのでしょうか。

今回は、立てこもりとはどのような犯罪か、5つの具体的なケースと処罰、立てこもりの事件について解説します。


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1、立てこもりという行為と法律

具体的にどのような行為が「立てこもり」と見なされるのでしょうか。立てこもりによって罪が成立しうるケースとともに確認していきましょう。

  1. (1)立てこもりとは

    実は、刑法に定められた「立てこもり」という犯罪はありません。

    立てこもりとは、外部から侵入できないように入口を閉ざし閉じこもっている状態をいいます。たとえば、ビルや家屋などの建物、また建物の部屋の一室に閉じこもる行為が、立てこもりにあたります。

    また、事件性のある立てこもりとしては、凶器を用い人質がいる場合が一般的なイメージとなるでしょう。

  2. (2)犯罪になる立てこもりの状況(態様)とは

    立てこもりすることによって成立する犯罪は、「刑法」と「人質による強要行為等の処罰に関する法律」の2つの法律に定められています。

    そのため、立てこもりといってもその状況(態様)によって、さまざまな犯罪が成立する可能性があります。

    たとえば、理由なく建物や他人の家に入り込めば、刑法上、建造物侵入罪住居侵入罪が成立する可能性があります。

    さらに、人質がいる場合には、人質による強要行為等の処罰に関する法律によって、人質強要罪人質殺害罪が成立する可能性があります。また、凶器を持っていたり、他者を傷付けたり、立てこもる目的で第三者の建物に侵入した場合にも罪が成立する可能性が高くなります。

2、問われうる罪が変わるケース

この章では、具体的なケースを挙げながら、実際にどのような罪が成立しうるか解説します。

  1. (1)ケース1:凶器を持たずに人質を取らず立てこもった

    ケース1の概要
    第三者Aが所有するマンションの一室に勝手に侵入し、凶器を持たず立てこもった。マンション内の一室には誰も居らず、人質を取ることもなかった。


    この場合、成立する可能性がある犯罪は、以下の通りです。

    • 住居侵入罪(刑法130条)
    • 不退去罪(刑法130条後段)


    刑法上「住居」とは、人が寝起きし寝食に使用する場所をいいます。住居侵入罪は、住居の所有者や管理権者が、住居に誰を立ち入らせとどまるのかを自由に決める権利を保護しています。そのため、他人の住居であるマンションに、所有者や管理権者の意思に反する立ち入りをした場合には、住居侵入罪が成立することになります。また、不退去罪は、所有者や管理権者から立ち退くよう求められた後に、居座り続けると成立する可能性があります。

    住居侵入罪や不退去罪が成立すると、3年以下の懲役または10万円以下の罰金が科されます。

  2. (2)ケース2:凶器を持って立てこもった

    ケース2の概要
    第三者Aの所有するマンションの一室に包丁を持って立てこもった。さらにマンションの所有者Aに対して、1000万円支払うよう要求した。


    この場合、住居侵入罪に加えて、以下の罪が成立する可能性があります。

    • 銃刀法違反(銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)22条)
    • 脅迫罪(刑法222条)
    • 強要罪(刑法223条)


    銃刀法違反や脅迫罪が成立すると2年以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。他方、強要罪が成立した場合には、3年以下の懲役が科されます。

  3. (3)ケース3:人質を取り立てこもった

    ケース3の概要
    第三者Aの所有するマンションの一室に侵入し、たまたまマンションの居室内にいたBを人質に取り、立てこもった。そして、マンションの所有者Aに対して、1000万円支払うよう要求した。


    この場合、人質強要罪(人質による強要行為等の処罰に関する法律1条)が成立する可能性があります。

    同条には、「人を逮捕し、又は監禁し、これを人質にして、第三者に対し、義務のない行為をすること又は権利を行わないことを要求した者」と規定されています。ケース3では、Bをマンションの一室内に監禁し、人質にしています。そして、第三者であるAに1000万円を支払うというAの義務ではない行為を要求しています。そのため、人質強要罪にあたると考えられます。

    人質強要罪が成立すると、6か月以上10年以下の懲役が科されます。また、人質強要罪が成立しなかったとしても、住居侵入罪や監禁罪(刑法220条)が成立する可能性もあります。監禁罪は3か月以上7年以下の懲役に科されることになります。さらには、ケース2同様、脅迫罪・強要罪も成立します。

  4. (4)ケース4:凶器を持ち人質を取って立てこもった

    ケース4の概要
    第三者Aの所有するマンションの一室に包丁を持って立てこもった。その際、たまたまマンションの居室内にいたBを人質に取った。そして、マンションの所有者Aに対して、1000万円支払うよう要求した。


    この場合もケース2や3同様、人質強要罪や住居侵入罪、監禁罪、脅迫罪、強要罪が成立するおそれがあります。

    また、そのほかにも、以下が成立する可能性があります。

    • 暴行罪(刑法208条)
    • 傷害罪(刑法204条)


    暴行罪になるか、傷害罪になるかは、Bに怪我を負わせたかどうかによって変わります。さらに、Bがすきを見て逃げ出したときに、転んでしまい怪我を負った場合であっても、暴行によって生じた怪我であると認められれば、傷害罪として罰せられることになります。

    これらの犯罪が成立した場合、暴行罪は2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料、傷害罪は15年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることになります。

  5. (5)ケース5:立てこもっている間に人質を殺した

    ケース5の概要
    第三者Aの所有するマンションの一室に包丁を持って立てこもった。その際、たまたまマンションの居室内にいたBを人質にとった。そして、マンションの所有者Aに対して、1000万円支払うよう要求しました。ところが、Bが逃げ出そうとしたため、包丁で殺害した。


    この場合、住居侵入罪や監禁罪、脅迫罪、強要罪のほかに以下の犯罪に問われる可能性があります。

    • 人質殺害罪(人質による強要行為等の処罰に関する法律4条)
    • 殺人罪(刑法199条)


    立てこもり犯が人質を殺した場合には、人質殺害罪が成立します。人質殺害罪は、死刑または無期懲役という非常に重い罰を規定しています。また、殺人罪が成立する可能性もあります。殺人罪の場合にも、死刑または無期もしくは5年以上の懲役に科されます。

3、立てこもった場所でも処罰は変わる?

立てこもった場所によって、成立する犯罪が変わることがあります。

  1. (1)勝手に入り立てこもった場合

    前述の通り、他人のマンションや家に侵入し、立てこもった場合には、住居侵入罪が成立する可能性があります。

    一方で、商業施設や公的施設など住居でない場所に侵入し、立てこもった場合には、建造物侵入罪が成立する可能性があります。

    なお侵入とは、建物の所有者や管理権者の「誰を立ち入らせるか決める自由意志」に反する立ち入りを意味すると考えられています。

  2. (2)入れてもらった建物内で立てこもり始めた場合

    所有者や管理権者の承諾を得て、建物内に入ったものの立てこもり始めたというケースもあるかと思います。この場合には、不退去罪が成立する可能性があります。

    不退去罪とは、居住者、建物の管理者などから出ていくよう要求されたとしても、出ていかなかった場合に成立する犯罪です。

4、家族が立てこもりの容疑者になったらどう対応すべきか

もし家族が立てこもりの容疑者になってしまったらどのように対応すべきでしょうか。立てこもりが起こったとき、事件がどのように進むか確認してみましょう。

  1. (1)立てこもり事件の流れ

    立てこもり事件が起こると、まず地域一帯を警察が封鎖します。そして、容疑者に出てくるように説得を始めます。説得により、立てこもることをやめ、人質を解放すれば、その場で現行犯逮捕されることになるでしょう。

    一方で、いつまでも説得に応じることなく、出てこなければ、人質交換の交渉が始まります。たとえば、一般女性が人質になっていた場合に、警察官が人質になる代わりに人質の一般女性を解放するよう交渉します。この交渉に応じた場合には、人質交換が行われます。

    人質交換にも応じない場合、警察官が建物内に突入する可能性が高くなります。警察官が突入することで、人質への暴行や殺害の可能性が高まります。また、警察官に容疑者が銃で撃たれる可能性もあります。そのため、いかに説得するかが立てこもり事件で重要となります。

  2. (2)家族ができること

    家族が立てこもりの容疑者になってしまった場合、家族ができることはそう多くはありません。家族が説得をしたいと考えても、警察の許可がなければ説得する機会はありません。

    しかし、家族として説得することができれば、人質を傷付けることなく、解放できるかもしれません。そのため、家族が立てこもりの容疑者になってしまった場合には、警察と相談して、説得する機会がないか聞いてみることになります。

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5、まとめ

立てこもりという犯罪は、侵入した状況や人質の有無などによって、さまざまな犯罪に問われる可能性があります。そのため、ケースごとにどのような犯罪が成立するか考える必要があります。

家族が立てこもり事件の容疑者になってしまった場合には、早急に刑事事件の実績がある弁護士に相談することをおすすめします。ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスでは、刑事事件の解決実績がある弁護士が、事件の解決に向けて尽力いたします。まずはお悩みをお聞かせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています