ペット(犬)の鳴き声問題|苦情はどこに? 慰謝料請求は可能?
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愛知県庁が公表する「令和2(2020)年 愛知県衛生年報」のデータによると、令和2年度に同県が処理した犬猫の苦情件数は1万5835件でした。うち、豊橋市内での件数は483件あります。
近所の住民が飼っている犬などのペットの鳴き声がうるさすぎて、昼夜を通じてストレスが溜まっているという方も少なくありません。聞こえてくるペットの鳴き声がおさまる気配が全くない場合は、他の近隣住民や自治体などと連携して対応しましょう。悪質なケースでは、慰謝料請求が認められることもあるため、対応に迷ったら弁護士にご相談ください。
今回は、近隣のペットの鳴き声がうるさすぎる場合について、苦情の相談先や慰謝料請求可否などをベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスの弁護士が解説します。
1、ペットの飼い主に生じる法的責任とは
ペットの管理責任は飼い主にあるため、ペットの鳴き声がうるさすぎる場合は、飼い主が何らかの法的責任を負担しなければならない可能性があります。以下では、具体的に発生し得る飼い主の法的責任を解説します。
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(1)動物愛護管理法に基づく努力義務
動物の飼い主や飼育員などの所有者・占有者の責務の規定は、以下、「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」第7条第1項のとおりです。
<動物の所有者又は占有者の責務等>
第七条 動物の所有者又は占有者は、(中略)動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない。(以下略)
犬などの飼っているペットがあまりにも激しく鳴くことにより、周辺住民に対する騒音被害が発生している場合は、動物が生活環境の保全上の支障を生じさせ、または人に迷惑を及ぼしている状態と言えます。
つまり、上記の動物愛護管理法の規定により、飼い主はペットの激しい鳴き声を止めさせるように努めることが必要です。
ただし、上記はあくまでも努力義務の規定であり、飼い主に対する強制力はありません。
したがって、動物愛護管理法に基づいて具体的な救済を求めることは難しい、というのが実情です。
なお、動物愛護法に基づき、地方公共団体に対して告発をするなどして、勧告などの行政指導を促すことは考えられますが、実際に勧告などまで行われた事例は非常に少ないです。 -
(2)動物占有者等の損害賠償責任
動物の占有者(飼い主など)は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負います(民法第718条第1項)。動物の占有者に代わって、その動物を管理する者(家族など)についても同様です(同条第2項)。
飼っているペットの鳴き声があまりにもうるさく、周辺住民に精神的損害を与えていると評価できる場合には、動物占有者等の責任に基づき、飼い主は周辺住民に対して損害賠償義務を負います。
なお、動物の種類および性質にしたがい、飼い主が相当の注意をもって動物を管理していた場合には、上記の動物占有者等の責任は発生しません(同条第1項但し書き)。
ただし、動物の鳴き声が騒音化しているケースでは、飼い主が適切な場所で動物を飼育していないことが原因であることが多いため、「相当の注意をもって動物を管理していた」と認められることは、まれでしょう。
2、ペットの鳴き声に関する苦情はどこに伝える?
近隣で飼われている犬など、ペットの鳴き声が問題となっているときは、慰謝料請求等を行う前に、まずは飼い主に鳴き声を止めさせるよう働きかけるのがよいでしょう。
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(1)まずは飼い主に直接伝える
最初は、飼い主に直接「ペットの鳴き声がうるさいので、鳴きやませてほしい」「ペットは家の中で飼育してほしい」とストレートに伝えましょう。
理路整然と近隣住民としての意見を伝えれば、飼育方法の見直しをしてくれる可能性があります。
ひとりで説得するのが不安な場合や、飼い主がなかなか説得に応じない場合には、他の近隣住民と連携して説得に当たることも有力な手段です。 -
(2)自治体の窓口に相談する
各市区町村の窓口では、動物に関連する近隣トラブルの相談を受け付けていることがあります。
近隣住民による説得が難しい場合には、お住まいの市区町村の窓口へ相談してみましょう。
状況が悪質であると認められれば、市区町村の担当者が状況改善のための指導に乗り出してくれる可能性があります。
3、ペットの鳴き声による被害で慰謝料請求は認められる?
近所のペットの鳴き声により、昼夜問わずストレスを感じ続けて精神的に参ってしまった場合は、動物占有者等の責任に基づき、飼い主に対して慰謝料を請求できることがあります。
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(1)飼い主に対する慰謝料請求が認められた裁判例
実際にあったペットの鳴き声問題による裁判例を、2つご紹介いたします。ご自身の状況と照らし合わせながら、確認してみてください。
<横浜地裁 昭和61年2月18日判決>
シェパードやマルチーズが異常な鳴き声で鳴き続け、周辺住民を神経衰弱状態や失神などに至らしめた事案です。
裁判所は、飼い主が昼間ほとんど不在がちであり、犬が飼い主と運動する機会がほとんどないことなどを指摘して、飼い主の保管義務違反を認定し、ひとり当たり30万円の慰謝料請求を認容しました。
<京都地裁 平成3年1月24日判決>
アパート(賃貸マンション)の賃借人が、同じアパートに住む賃貸人(入居者)が中庭で飼うシェパードの鳴き声がうるさく、さらに糞の悪臭が発生していることを理由に、賃貸人に対して慰謝料を請求した事案です。
裁判所は、賃貸人と賃借人が長年の付き合いであり、同一建物内で密着して生活していることなどを理由に、賃借人側の受忍限度を広く解すべきとしつつ、賃貸人の行為は受忍限度を超える違法なものと認定しました。
その一方で、賃借人側の報復行為などが認められることや、賃貸人がすでに犬を手放し、今後中庭で犬を飼育しないことを制約していることなどを考慮して、ひとり当たり10万円の慰謝料支払いを命じるにとどまりました。 -
(2)慰謝料額を左右する考慮要素
動物の鳴き声がうるさいことを理由とする慰謝料請求を行うとき、その慰謝料額を左右する要素として、裁判例で考慮された内容の一例を以下に挙げます。
① 被害者側の受忍限度はどの程度か- 飼い主と被害者の付き合いの長さ
- 飼い主と被害者の間の物理的距離
② 鳴き声の態様- 時間帯(早朝や夜間の場合、慰謝料が高額になりやすい)
- 音量
- 頻度
③ ペットの飼い主が講じた措置- 飼う場所を移動したか
- 動物を手放したか
- 再発防止を約束しているか
4、身近な法的トラブルを弁護士に相談する3つのメリット
動物の鳴き声の問題に限らず、身近な法的トラブルに巻き込まれると、どのように対応すべきかわからず悩んでしまう方が多くいらっしゃいます。身近な法的トラブルに巻き込まれてしまった場合は、ひとりで悩み続けることなく、弁護士へ相談することがおすすめです。
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(1)今後の対応方針が明確になる
弁護士に相談することで、法的トラブルを解決するために今後何をすべきなのか、適切な対応方針についてアドバイスを受けることができます。
今後の対応方針が明確になれば、法的トラブル解決に向けての見通しが立ち、精神的な安心にもつながるでしょう。 -
(2)慰謝料請求の可否がわかる
法的トラブルによって、具体的な損害を被ってしまった場合、加害者に対して慰謝料を請求したいところです。
しかし、慰謝料請求を行うためには、不法行為等の要件を満たしている必要があります。
弁護士は事情を詳しく伺ったうえで、慰謝料請求が認められる見込みがどの程度あるかについて、分析・アドバイスすることが可能です。
もし慰謝料請求の成算が小さい場合には、別の解決方法をご提案いたしますので、まずは一度、ご相談いただくことをおすすめいたします。 -
(3)依頼すれば対応を一任できる
法的トラブルに関する慰謝料請求等を、弁護士へ正式にご依頼いただければ、その後の示談交渉や法的手続きは、弁護士が全面的に代行することが可能です。また、精神的な負担は軽減され、さらに準備や対応の漏れをなくすこともできます。
相手方の理不尽な主張に屈することなく、ご自身の正当な権利を主張できる点も、弁護士にご依頼いただくことの大きなメリットと言えるでしょう。
身近な法的トラブルへの対処法にお困りの方は、ぜひ弁護士までご相談ください。
5、まとめ
近隣で飼っているペットの鳴き声がうるさすぎる場合、まずは他の近隣住民や自治体と連携して、ペットの鳴き声を静めるように飼い主に求めましょう。
鳴き声がやむ気配が一向にない場合や、深刻なノイローゼに陥ってしまった場合などには、飼い主に対して慰謝料を請求することも考えられます。
ベリーベスト法律事務所では、身近な法律トラブルに関する法律相談を受け付けております。ご依頼者さまの精神的ご負担を軽減するために、弁護士が誠心誠意尽力いたしますので、お困りの際はおひとりで悩み続けることなく、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています