嫌がらせによる精神的苦痛で慰謝料請求するための手順と必要なこと
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豊橋市役所が公開する「豊橋市統計書(令和3年版)」によると、名古屋地方裁判所豊橋支部において、令和2年に新たに受理した民事事件は2546件でした。平成30年は2308件、令和元年は2487件と、民事事件の新規受理数は年々増加傾向にあることがわかります。
職場や地域での交流など、さまざまなシーンで人間関係が構築されますが、そのすべてがうまくいくとは限りません。たとえば、いきなり嫌がらせが始まるなんてこともあるでしょう。
嫌がらせによって精神的苦痛を受けた方は、加害者に対して慰謝料(損害賠償)を請求できる可能性があります。また、状況によっては、裁判所に接近禁止命令を申し立てることも可能です。
今回は、嫌がらせにより精神的苦痛を受けた場合の対処法として、慰謝料請求や接近禁止命令の申し立てなどを、ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスの弁護士が解説します。
1、精神的苦痛とは?
まずは、精神的苦痛についての理解を深めていきましょう。どのようなことを精神的苦痛と呼ぶのか、また、精神的苦痛を感じるような出来事の例を紹介します。
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(1)精神的苦痛の主な心情
精神的苦痛とは、心情面で過度にストレスを感じている状態全般を意味します。
精神的苦痛を表す主な表現例は、以下のとおりです。- 悲しい
- つらい
- 苦しい
- 寂しい
- みじめだ
また、損害賠償との関係では、金銭に換算することが容易な消極損害や逸失利益といった「被害者が得るはずだった喪失利益」の対比で用いられるケースが多くあります。
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(2)精神的苦痛の原因となる主な出来事
精神的苦痛を引き起こし得る主な出来事としては、以下のような例が挙げられます。
- 配偶者によるDV、モラハラ、不貞行為
- 職場内でのハラスメント(パワハラ、セクハラなど)
- 恋愛感情のもつれによるストーカー行為
- SNSなどネット上での名誉毀損、侮辱
- 会社による不当解雇
上記の行為はいずれも、嫌がらせの一環として行われることが多いものです。
そして、このような嫌がらせによって第三者に精神的苦痛を与える行為は、不法行為にもとづく損害賠償(慰謝料支払い)の対象になることがあります。
2、嫌がらせにより精神的苦痛を受けた場合、慰謝料請求できる?
嫌がらせなどで精神的苦痛を受けたことを理由に、加害者に対して慰謝料を請求するためには、不法行為の証拠を集めなければなりません。不法行為の成立要件や証拠となるものについて、解説します。
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(1)不法行為にもとづく慰謝料請求
不法行為とは、故意や過失によって、他者の権利や利益を侵害する違法行為のことです(民法709条)。加害者から嫌がらせなどの行為によって精神的苦痛を受けた場合、被害者は不法行為にもとづく慰謝料を請求できる可能性があります。
不法行為の成立要件は、以下のとおりです。- ① 当該行為が加害者の故意または過失によること
- ② 当該行為が違法であること
- ③ 当該行為により、被害者が損害を受けたこと(損害+因果関係)
上記の要件をすべて満たす行為によって被った精神的苦痛については、不法行為にもとづく慰謝料が認められます。
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(2)不法行為を示す主な証拠の例
精神的苦痛につき、不法行為にもとづく慰謝料請求を行うには、相手方の不法行為を立証するために証拠を集めなければなりません。
被害者が利用し得る証拠としては、以下の例が挙げられます。- 被害を受けた際の録音データや写真データ
- 防犯カメラなどの映像
- メッセージのやり取り
- 被害状況に関する日記やメモ
- 第三者の目撃証言
自分で証拠を集めるのが難しいときには、弁護士のアドバイスを受けたり、探偵に依頼して代わりに集めてもらったりすることも有力です。できる限り有力な証拠を複数集めることが、慰謝料請求を成功させるためのポイントになります。
3、嫌がらせの加害者に慰謝料を請求する手順
ここからは、嫌がらせの加害者に対する慰謝料請求を行うための手順について、詳しく説明します。
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(1)加害者を特定する
そもそも加害者が誰だか判明していない場合には、加害者を特定しなければなりません。
たとえば、SNS上での誹謗中傷や侮辱であれば、弁護士に相談して発信者情報の開示手続きを行う方法が効果的です。ネット上の加害者特定に関しては、令和4年10月1日にプロバイダ責任制限法の改正が行われたことで、よりスムーズに対応できるようになりました。
また、近隣トラブルの場合には、現場付近に防犯カメラを設置して、加害状況を撮影する方法などが考えられるでしょう。
このように、嫌がらせの内容に合わせて、適切な手段で加害者を特定することが大切です。どのような方法を用いるべきかについては、弁護士にご相談ください。 -
(2)内容証明郵便を送付する
加害者に対して慰謝料請求を行う場合、一般的には、まず内容証明郵便によって請求書を送付します。
内容証明郵便は、郵便局が差出人・受取人・差出日時・内容を証明するものです。差出人に交付される謄本は、慰謝料請求を行ったという事実に関する証拠として用いることができます。
精神的苦痛に関する慰謝料請求権の時効については、被害者が損害および加害者を知ったときから3年(または不法行為のときから20年)で消滅してしまいます。
しかし、内容証明郵便によって慰謝料請求を行えば、消滅時効の完成を6か月間引き延ばすことが可能です(民法第150条第1項)。 -
(3)示談交渉を行う
加害者が内容証明郵便を受領し、内容に応じれば、示談交渉が始まります。
示談交渉では、慰謝料の金額や支払い方法などに関する話し合いを行います。具体的な金額については、個別具体的な事情や過去の裁判例を参考にしながら交渉するケースが多いです。
被害者と加害者が合意したら、その内容を和解合意書という書面にまとめて締結します。和解合意書は当事者双方を拘束し、加害者はその内容に従って、被害者に慰謝料を支払わなければなりません。 -
(4)民事調停を申し立てる
示談交渉がまとまらなければ、裁判所に民事調停を申し立てることも考えられます。
民事調停とは、裁判所で行われる話し合いの手続きです。
調停委員が被害者・加害者の双方から個別に主張を聴き取り、両者の間で調整を図りながら解決の合意を目指します。調停が成立すれば、その内容をまとめた調停調書が作成されます。
加害者からの嫌がらせ行為が悪質かつ不法行為に該当する、と調停委員にわかってもらうことが、被害者側として有利な形で解決するためのポイントです。
そのためには、法的な観点から説得力のある主張を行う必要がありますので、弁護士を代理人に立てることをおすすめいたします。 -
(5)訴訟を提起する
民事調停が不成立となった場合は、訴訟を提起して慰謝料請求を争うのが最後の手段となります。なお訴訟は、民事調停を経ずに提起することも可能です。
訴訟では、証拠を用いて慰謝料請求権の存在を立証しなければなりません。
具体的には、加害者の行為が不法行為に該当すること、被害者が受けた損害額、不法行為と損害の因果関係を立証する必要があります。
慰謝料請求を認める判決を得るためには、民事調停と同様、充実した証拠をもとに法的な観点から主張を行うことが必要不可欠です。
訴訟手続きには専門的な対応が求められるため、弁護士に対応をお任せください。
4、嫌がらせが続く場合は「接近禁止」等の申し立てを検討
やまない嫌がらせに耐えかねている場合は、裁判所に対して「接近禁止」などの申し立てを行うこともご検討ください。
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(1)配偶者・元配偶者等による嫌がらせ|DV防止法にもとづく保護命令
配偶者や元配偶者、内縁者、元内縁者から暴力・脅迫を受けている場合は、DV防止法第10条を根拠に、裁判所に対して保護命令を申し立てることが可能です。
なお、DV防止法の正式名称は、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」といいます。
裁判所は原則として、当事者双方が立ち会うことのできる審尋期日を経て保護命令を発令します(同法第14条第1項本文)。ただし、暴力や脅迫がまさに継続しているなどの事情があれば、審尋期日を経ずに保護命令が発令されるケースもゼロではありません(同項ただし書き)。
保護命令では、加害者に対して、6か月間の被害者に対するつきまとい・徘徊の禁止や、2か月間は被害者の住居から退去することなどが命じられます。
保護命令に違反した場合は刑事罰の対象となるため(同法第29条)、一定の抑止力となるでしょう。 -
(2)恋愛感情などからの嫌がらせ|ストーカー規制法にもとづく禁止命令
恋愛感情などの好意の感情や、それが満たされなかったことへの怨恨の感情を充足する目的で嫌がらせを受けた場合は、裁判所に対して禁止命令等を申し立てることが可能です(ストーカー規制法第5条第1項)。
なお、ストーカー規制法の正式名称は「ストーカー行為等の規制等に関する法律」といいます。
裁判所は、加害者に対する聴聞(弁明の機会)を経たうえで禁止命令を発令するのが原則です。(同条第2項)。ただし、被害者の身体の安全・住居等の平穏・名誉・行動の自由が害されることを防止するために緊急の必要がある場合は、聴聞を行わずに禁止命令が発令される場合もあります(同条第3項)。
禁止命令では、加害者に対して、被害者へのつきまとい等の禁止が命じられます。
違反した場合は重い刑事罰の対象となるため(同法第19条)、ストーカーに対する一定の抑止効果が期待できるでしょう。 -
(3)その他の嫌がらせ|接近禁止の仮処分命令
その他の嫌がらせにより、被害者に著しい損害または急迫の危険が生じるおそれがある場合には、裁判所への申し立てにより、接近禁止の仮処分が発令される可能性があります(民事保全法第23条第2項)。
裁判所は原則として、当事者双方が立ち会うことのできる審尋期日を経て接近禁止の仮処分命令を発令します(同条第4項本文)。ただし、嫌がらせの程度が著しく緊急を要するなどの事情があれば、審尋期日を経ずに保護命令が発令される場合もあります(同項ただし書き)。
接近禁止の仮処分命令に違反した場合は、間接強制による制裁金を支払わなければなりません。
DV防止法にもとづく保護命令や、ストーカー規制法にもとづく禁止命令ほどではなくとも、ある程度の抑止につながるでしょう。
5、まとめ
精神的苦痛は、過度にストレスを感じている精神状態です。第三者からの嫌がらせにより精神的苦痛を被っている場合は、加害者に対する損害賠償請求(慰謝料請求)を行うことができるケースもあります。
慰謝料請求により適正な賠償金を獲得するには、嫌がらせの証拠をしっかりと集めながら、弁護士のサポートを受けることがおすすめです。
嫌がらせの被害に遭い、精神的苦痛から加害者に対する慰謝料請求などをご検討中の方は、ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています