重大な過失とは何か? 故意や過失の意味も併せて弁護士が解説

2023年04月06日
  • 一般民事
  • 重大な過失
重大な過失とは何か? 故意や過失の意味も併せて弁護士が解説

法律用語の「故意」「過失」「重大な過失」という言葉は、いずれも行為者の主観を示す用語ですが、具体的な意味はひとつひとつ異なっています。

これらは、損害賠償請求や過失相殺をする際などに問題となる用語であり、日常生活で生じる可能性のあるトラブルに備えて、それぞれの違いをしっかりと理解しておくことが大切です。

今回は、「重大な過失」の意味や「故意」「過失」との違いなどについて、ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスの弁護士が解説します。

1、故意とは何か? 過失とは何か?

「重大な過失」という言葉の理解を深めるために、まずは「故意」および「過失」の意味について説明します。

  1. (1)故意とは?

    故意とは、結果発生を認識しながら、それを容認したうえで行為に及ぶことです。わかりやすくいえば、ある行為を意図的に行うことが故意だといえるでしょう。

    たとえば、横断歩道を渡っている歩行者がたまたま憎い相手だったことから、意図的にアクセルを踏み込んでひき殺したというケースは、故意による行為と評価できます。
    この場合、刑事上は殺人罪(刑法199条)が成立し、民事上は故意の不法行為(民法709条)にあたり、加害者に損害賠償義務が生じます。

  2. (2)過失とは?

    過失とは、結果を予見し、結果回避が可能であったにもかかわらず、必要な注意を怠ったことです。故意は、結果を完全に認識しているのに対して、過失は認識できたにもかかわらず不注意によって認識しなかった、という点で異なります。

    たとえば、横断歩道を渡っている歩行者に気付かずにひいてしまったという場合には、過失による行為と評価できます。

  3. (3)故意・過失が問題となるケース

    民事責任で故意が問題になるものは、債務不履行と不法行為の2つの場面が挙げられます。

    ① 債務不履行
    債務不履行とは、契約により生じた義務を守らないことです(民法415条)。債務不履行があった場合、債権者は債務者に対して、以下の請求をすることができます。
    • 契約どおりの債務の履行
    • 損害賠償請求
    • 契約の解除

    ただし、債務不履行による責任追及をするためには、債務者に帰責事由があることが必要です。帰責事由とは、故意、過失または信義則上これと同視すべき事由をいいますので、債務者の故意または過失で債務不履行が生じた場合に、債務不履行責任を追及することができます。

    たとえば、お金を借りた人が返済期限を過ぎているにもかかわらず、「お金がない」という理由で返済をしないことは、故意による債務不履行といえます。また、同様のケースで返済期限をうっかり忘れていたという場合には、過失による債務不履行です。
    いずれのケースでも、貸主は借主に貸したお金の返還を求めることができます。

    ② 不法行為
    不法行為とは、故意または過失によって、他人の権利・利益を違法に侵害する行為です(民法709条)。不法行為が成立する場合には、加害者に対して、損害賠償請求をすることができます。

    たとえば、交通事故による損害賠償請求、不倫による慰謝料請求、誹謗中傷による慰謝料請求などは不法行為による損害賠償請求の一例です。

2、重大な過失とは何か?

重大な過失とは、わずかな注意をすれば容易に結果を予見・回避できたにもかかわらず、漫然と看過したというような著しい注意欠如の状態です。重大な過失は、単なる過失よりも重い注意義務違反の状態であり、ほとんど故意に近いものであるといえるでしょう。

たとえば、車を運転していて、突然人が飛び出してきたためにひいてしまったという場合には、過失による不法行為が成立します。しかし、制限速度を大幅にオーバーして走行していたために事故が生じた場合には、重過失(重大な過失)による不法行為が成立する可能性が高いでしょう。

いずれも不法行為による損害賠償義務が生じるという点は共通しますが、重過失の方が重い賠償義務を背負うことになります。

3、重大な過失が問題となる例

民事上のトラブルで、重大な過失が問題となる3つの例をご紹介いたします。

  1. (1)火事を起こしたとき

    故意または過失によって火事を起こしてしまい、他人の家を延焼させてしまった場合、本来であれば火事を起こした行為者は、不法行為による損害賠償責任を負うことになります。

    しかし日本では、木造の建築物が多く類焼(もらい火)の危険があること、火事を起こした行為者自身も自宅を焼失するといった損害を受けていることがあります。そのため、損害賠償責任を負わせるのは酷であるなどの理由から、失火(過失による火災)に関する不法行為の特則として「失火責任法」が定められています。

    失火責任法では、失火者の責任が不法行為責任よりも緩和されており、失火により他人の家が延焼したとしても、失火者に「重大な過失」がなければ損害賠償義務は生じません
    重大な過失にあたるかどうかは、個々の事案ごとに判断されます。

    <重大な過失と認定される可能性があるケース>
    • ガスコンロでてんぷら油の入った鍋を加熱中に、その場を離れて失火させた
    • タバコの吸い殻が完全に消えたことを確認せず、ゴミ袋に入れて放置したまま外出して失火させた
    • 漏電の可能性があることを業者から指摘されたにもかかわらず、適切な措置を講じなかったため、漏電により失火させた


    このように、隣家からの失火によって自宅が焼失してしまったとしても、失火者に重大な過失がなければ、失火者に損害賠償請求をすることができません。

    自宅の焼失という損害をカバーするには、火災保険に加入しておくことが推奨されます。火災保険に加入していれば、このような重過失によらない失火も保険会社からの保険金によってカバーすることが可能です。

  2. (2)消費者が事業者との間で契約をしたとき

    消費者と事業者との間には、交渉力や情報量の面で圧倒的な差があるため、交渉力や情報量で劣る消費者が不利な契約をしてしまう可能性があります。このような、消費者が被る不利益を回避できるようにするための法律が、「消費者契約法」です。

    消費者契約法は、消費者と事業者との間のすべての消費者契約に適用され、「事業者の不当な勧誘による契約は取り消すことができる」「消費者の権利を不当に害する契約条項は無効になる」といったルールが定められています。

    また、消費者契約法が定める「重大な過失」に関するルールとしては、不利益事実の不告知による取り消しがあります。これは、重要事項について不利益となる事実を故意または過失によって告げなかった場合に、契約を取り消すことができるというものです。

    たとえば、すぐ隣の土地に高層マンションの建設計画があることを知っていながら、そのことを説明せずに「眺望・日照良好」などと説明して住宅を販売するようなケースがこれにあたります。

  3. (3)交通事故を起こしたとき

    交通事故を起こした場合には、「故意」「過失」「重大な過失」のいずれであっても、不法行為に基づく損害賠償義務が生じるものです。このとき、交通事故が過失によるものであるのか、重大な過失によるものであるのかによって、賠償義務の程度が異なってきます。

    事故態様や事故類型に応じて過失割合が定められているのが、交通事故の特徴です。
    加害者だけでなく被害者にも過失があるような場合には、過失相殺によって、被害者の損害額が減額されることがあります。交通事故の重大な過失に関しては、過失割合の修正要素です。

    <重大な過失と認められる可能性が高いケース>
    • 酒酔い運転
    • 居眠り運転
    • 無免許運転
    • おおむね時速30km以上の速度違反
    • 過労、病気、薬物の影響などにより正常な運転ができないおそれがある場合

4、法律トラブルは弁護士に相談を

日常の法律トラブルでお困りの方は、弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)トラブルの解決方法をアドバイスしてもらえる

    法律トラブルとは無縁だと思っていても、突然、交通事故や悪質商法の被害にあってしまう可能性はゼロではありません。法律トラブルに巻き込まれてしまった場合には、すぐに適切な対処をすることが大切です。

    それには、弁護士のアドバイスが不可欠となりますので、何らかの法律トラブルに巻き込まれてしまったという方は、すぐに弁護士にご相談ください。

  2. (2)トラブルになっている相手との交渉窓口に立ってもらえる

    トラブルが生じた場合には、まずは、相手との話し合いによって解決を目指すことになります。このとき、自身で交渉を行うのは精神的に大きな負担が掛かる可能性があり、相手から提示された解決方法が法的に妥当なものであるかどうかの判断も難しいことがあります。

    そのような場合には、弁護士への依頼をご検討ください。弁護士に依頼をすれば、弁護士が相手との交渉の窓口になりますので、本人同士で交渉をする必要がなくなります。また、弁護士が交渉をすることによって、法的に妥当な解決へと導くことも可能です。

    トラブル後の対応をひとりで行うことに少しでも不安がある方は、まずは、弁護士に相談するようにしましょう。

5、まとめ

「重大な過失」「故意」「過失」は、行為者の主観によって生じる法的効果も異なってきますので、これらの意味や違いを正確に理解しておくことが大切です。

日常生活では、突然に法律トラブルに巻き込まれるリスクもあります。その場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
その際は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスまでお問い合わせください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています