会社から育休の取得を拒否されたときの、対処法と相談先は?
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愛知県が公表している「労働条件・労働福祉実態調査結果」によると、令和4年の育休の取得率は女性が94・4%、男性が10・8%と、いずれも前年よりも高い数値になっています。愛知県内で育休の取得が進んでいるといえるでしょう。
幼い子どもがいる家庭では、育休を取得することによって、会社を辞めることなく育児に専念することができます。近年では、女性だけでなく男性も育休を取得する機会が増えてきました。男女問わず、これから育休を取得することを考えている方も多いでしょう。
しかし、一部の会社では、労働者からの育休申請をさまざまな理由をつけて拒否されることがあります。育休を拒否することは原則として違法ですので、もし会社から拒否されたら、適切な方法によって対処しましょう。本コラムでは、育休の取得を拒否された場合の対処法や相談先について、ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスの弁護士が解説します。
1、会社が育休を拒否することは違法?
まず、育休という制度の概要や、会社が育休を拒否することは原則として違法であることを解説します。
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(1)そもそも育休とは?
育休とは、正式名称を「育児休業」といい、1歳未満の子どもを養育する労働者が子どもを養育するために休業することができる制度です。
育休中は育児休業給付金が支給されますので、育児によりキャリアを中断することなく働くことができます。
また、産休とは異なり、女性だけでなく男性にも育休を取得する権利が認められています。
育休は、子どもが1歳になるまで認められるのが原則ですが、保育所に入ることができないなどの一定の事情がある場合には、最長で子どもが2歳になるまで育休が認められます。 -
(2)育休の拒否は原則として違法
育休は、育児介護休業法という法律によって認められている、労働者の権利です。育休は、法律的には、一定の要件を満たす労働者は、会社に対して育休取得の申し出をすれば、育休を当然に取得することができます。会社の承諾は要件とはされていません(育児介護休業法5条1項)。また、労働者から育児休業の申し出があった場合には、会社は原則としてその申し出を拒むことはできないのです(育児介護休業法6条1項)。
会社が労働者からの育休申請を拒否することは、育児介護休業法に反して違法となります。違法な対応をした事業主に対しては、厚生労働大臣から報告を求められ、助言・指導・勧告などがなされます。
また、企業が勧告に従わなかった場合には企業名や違反内容が公表されることもあります。さらに、報告を怠った企業や虚偽の報告をした企業には、20万円以下の罰金が科されるのです。
2、育休を拒否できるケース
以下のようなケースでは、例外的に、会社は労働者からの育休申請を拒否することができます。
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(1)有期雇用契約で子どもが1歳6か月になる日までの雇用契約が満了するケース
育休は、正社員だけでなく、契約社員やパートやアルバイトであっても取得することができます。
しかし、有期雇用契約の労働者の場合には、子ども1歳6か月(1歳6か月から2歳の育児休業では2歳)になる日までに雇用契約が満了して、更新しないことが明らかであるなら、育休を取得することができません。
ただし、雇用期間が満了しても更新の予定がある場合には、有期雇用契約の労働者であっても育休を取得することができます。 -
(2)労使協定で定めがあるケース
会社と労働者の過半数を代表者との間で労使協定が締結されている場合には、以下の条件に該当する労働者の育休申請は認められません。
- 雇用期間が1年未満である
- 1年以内に雇用関係が終了する
- 週の所定労働日数が2日以下
労使協定は、会社と労働者との間で締結するルールです。
基本的には会社と労働者との話し合いによってルールが定められるため、上記のルールが設けられていない会社もあります。
育休取得を考えている方は、まずは労使協定のなかに育休についての定めがあるかどうか、ある場合にはどのような定めであるかを確認するようにしましょう。
3、育休取得を拒否された場合の対処法
育休取得の要件を満たしているにもかかわらず会社から育休取得を拒否されてしまった場合には、以下のような対処法を検討してください。
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(1)会社の相談窓口で相談
育児介護休業法では、会社に対して、育休を取得しやすい雇用環境を整備するための施策のひとつとして、産休・育休についての相談窓口の設置を求めています。
そのため、会社によっては、育休に関する相談窓口が設置されています。
窓口が設置されているなら、まずはそこに相談してみることは有効な手段となります。
社内の窓口に育休取得を拒否された旨を相談すれば、事実関係の調査が行われ、育休の取得を認めてもらえる可能性もあるでしょう。
ただし、とくに中小企業では、育休に関する相談窓口が設けられていない場合や、設けられていたとしてもほとんど機能していない場合があります。
社内での相談で期待していた効果が得られないという場合には、後述するような、外部の相談窓口を利用してみましょう。 -
(2)労働局に相談
社内の相談窓口が機能していない場合には、各都道府県に設置されている労働局に相談することを検討してください。
労働局には「雇用環境・均等部」という部署が設けられており、男女ともに働きやすい雇用環境の実現を目指してさまざまな取り組みが行われています。
取り組みのひとつとして、育児介護休業法に基づく紛争解決援助も実施されているため、会社との間で育休取得に関してトラブルが生じた場合の相談もできます。
具体的には、以下のような対応をしてもらうことができます。① 労働局長による援助(助言・指導・勧告)
簡単な手続きで迅速に解決をしてもらいたいという場合には、労働局長による援助という方法があります。
これは、労働局が労働者と事業主の双方から話を聞き、問題解決に必要な助言や指導、勧告といった援助を行う制度です。
労働者と使用者が歩み寄れば、援助内容に沿った解決方法を実行できる可能性があります。
② 調停
育休に関するトラブルについては、労働局の「両立支援調停会議」を利用することができます。
調停では、調停委員が労働者と事業者の双方から話を聞き、紛争解決方法として調停案の提示を行います。
両当事者が調停委員の作成した調停案を受諾することによって、問題の解決を図ることができます。 -
(3)弁護士に相談
育休取得の要件を満たしているにもかかわらず育休申請を拒否されてしまったという場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談をするメリットについては以下の項目で解説します。
4、会社から育休を拒否されたとき、弁護士に相談するメリット
会社から育休取得を拒否されたとき弁護士に相談することには、以下のようなメリットがあります。
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(1)育休取得を認めるよう会社と交渉ができる
育休は、一定の条件を満たす労働者に認められている法律上の制度であるため、取得要件を満たした労働者から申請があった場合には、会社が育休取得を拒否することはできません。
しかし、会社によっては、育休制度を正確に理解していないために、誤解から育休を拒否しているケースもあります。
弁護士であれば、法律の専門家として、会社に対して育休取得の必要性をわかりやすく説明することができます。
弁護士から説明されることで、会社も制度を誤解していることに気付き、素直に労働者からの育休申請を認めてくれる可能性が高くなるでしょう。 -
(2)育休申請を理由とする不当な扱いに対応できる
育休の取得率が上がってきたとはいえ、まだまだ十分な理解が得られていない現状があります。
とくに男性が育休を取得することに対して、快く思わない人も多々います。
そのため、会社によっては、育休申請や育休取得をしたことを理由に解雇や降格などの不利益処分を行うことがあるのです。
このような育休を理由とする不利益取り扱いは、男女雇用機会均等法や育児介護休業法によって禁止されている行為です。
育休を取得したという理由だけでは、解雇や降格をする正当な理由にはなりませんので、不当な不利益処分であるとして法的に争うことが可能です。
労働者が会社に対して法的に争う際には、弁護士によるサポートが実質的に不可欠であるため、まずは弁護士にご相談ください。
弁護士は労働者の代理人となって会社と交渉を行い、交渉が決裂した場合には労働審判の申立てや訴訟提起によって、不利益処分の撤回を求めることができます。
5、まとめ
育休は、幼い子どもを抱える労働者に認められた、法律上の権利です。
会社の就業規則に育児解雇休業制度の規定がなかったとしても、育休の取得は法律上当然に認められるため、女性労働者だけでなく男性労働者も積極的に利用していくとよいでしょう。
会社によっては、育休に関して十分な理解がなく、違法であるにもかかわらず労働者からの育休申請を拒否してしまうことがあります。
また、育休を取得した社員に対して解雇や降格などの不利益処分を不当に行う会社も存在します。
このような場合には、社内の相談窓口や労働局、弁護士などに相談してみましょう。
とくに、会社と交渉を行ったり法的手段を用いて争ったりする場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
会社から育休の取得を拒否されてしまったら、まずはベリーベスト法律事務所までご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています