出向における雇用契約のポイント|定めておくべき労働条件とは

2023年09月26日
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出向における雇用契約のポイント|定めておくべき労働条件とは

従業員を出向させる場合には、従業員の個別同意を得ない限り、雇用契約や就業規則の根拠が必須となります。

出向に関するトラブルを避けるため、雇用契約の締結時および出向時において、契約書などの書面を適切に作成しましょう。

本コラムでは「出向」について、概要や確認事項、雇用契約のポイント・関連書面に記載すべき事項などについて、ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスの弁護士が解説します。

1、出向とは?

「出向」とは、会社が雇用契約を維持したまま、従業員を別の会社で働かせることをいいます
「在籍出向」と呼ばれることもあります。

一般的には、従業員の出向先は、グループ会社や取引先の会社などが多いでしょう。
グループ全体で労働力の調整を図ることや取引先との関係強化を図ることなどを目的として、会社が従業員に出向を命じる場合もあります。

  1. (1)出向(在籍出向)と転籍(転籍出向)の違い

    出向(在籍出向)と同じく従業員を別の会社で働かせる人事異動として「転籍(転籍出向)」が挙げられます。

    転籍では出向と異なり、元の会社と従業員の間の雇用契約は終了して、従業員は転籍先の会社と新たに雇用契約を締結します。
    出向者は引き続き元の会社の従業員であるのに対して、転籍者は元の会社とは無関係になる(契約関係から離脱する)点が、大きな違いとなります

    後述するように、出向は従業員の個別同意がなくても認められることがありますが、転籍は従業員の個別同意が必須とされています。出向よりも転籍のほうが従業員の身分や生活に与える影響が大きいためです。

  2. (2)従業員を出向させるための要件

    従業員の同意があれば、従業員を出向させることができます。

    また、従業員の同意がなくても、以下の要件を満たす場合には、従業員を出向させることができるのです(最高裁平成15年4月18日判決)

    1. ① 就業規則(または労働契約)において、出向があり得る旨が定められていること

    2. ② 以下の事項に関して、出向者の利益に配慮した詳細な規程が設けられていること
    • 出向の定義
    • 出向期間
    • 出向中の従業員の地位
    • 賃金
    • 退職金
    • 出向手当
    • 昇格、昇給などの査定
    • その他の処遇

    1. ③ 出向命令が権利の濫用にあたらないこと
    <権利濫用の有無を判断する際の考慮要素>
    • 出向の必要性
    • 出向者の人選基準の合理性
    • 具体的な人選の妥当性
    • 出向者が受ける不利益の程度
    • 出向命令の発令に至る手続き

2、出向元と出向先の間で確認しておくべきこと

従業員を出向させる場合には、出向先企業とのトラブルを避けるため、以下の事項などについて明確に合意しておくことが大切です。



  1. (1)給与などの待遇条件

    出向者に与える以下の待遇については、出向元と出向先との間で明確に合意しておきましょう。

    (例)
    • 出向期間
    • 出向中の従業員の地位
    • 賃金(給与)
    • 退職金
    • 出向手当
    • 昇格、昇給などの査定
    など


    とくに従業員の同意を得ず出向させる場合には、出向者の利益に配慮して、出向前と同等以上の待遇を保証することが必要になります

  2. (2)給与などをどちらが支払うか

    出向者の給与(基本給・残業代・賞与など)や雇用保険、退職金の積み立てなどについても、出向元と出向先のどちらが負担するかについても合意しておきましょう

    出向者は出向先で働くことになるので、基本的には出向先が給与などを負担するケースが多いと考えられます。
    ただし、出向元において高待遇を得ていた従業員が出向する場合、出向先では従前の給与などを負担しきれないこともあるでしょう。
    そのような場合には、出向者の待遇を維持するため、出向元が給与の一部を負担するなどの方法を検討してください。

  3. (3)従業員の働きぶりに関する報告方法

    出向元としては、人事評価などの参考とするため、出向先における従業員の働きぶりを知りたいところでしょう。

    従業員の働きぶりに関する報告の方法についても、出向先と合意しておくことを検討してください。
    たとえば「随時に報告を受ける」という方法や「定期的に報告書を提出してもらう」という方法などが検討できます。

3、出向を想定した雇用契約のポイント

出向が想定される従業員と雇用契約を締結する際には、とくに以下の二点に注意が必要となります。



  1. (1)出向があり得る旨を明記する

    出向が想定される従業員については、労働条件通知書および雇用契約書において「出向があり得る」という旨を明記することがもっとも大切です

    具体的には、以下のような内容の規程を、労働条件通知書および雇用契約書に盛り込んでおきましょう。

    (例)
    第〇条(出向)
    1. 会社は従業員に対して、業務上の都合により、グループ会社、取引先その他の会社へ出向を命ずることがある。
    2. 前項に基づき出向を命じられた従業員は、正当な理由なくこれを拒むことができない。
    3. 出向先における労働条件等は、個別に定めるほか、会社の「出向規程」による。


  2. (2)就業規則等で出向条件を詳細に明記する

    就業規則(または労働協約)で出向条件を詳細に定めておくと、従業員の同意がなくても、出向命令の有効性が認められやすくなります

    就業規則とは別に、「出向規程」などの社内規程を制定することも検討できるでしょう。
    また、出向に関する規程を定める際には「出向者に従前と同等以上の待遇を保証する」という考え方を意識しておくことが大切です。

4、出向に関する書面に記載すべき事項

従業員を出向させるにあたっては、以下の書面を作成しましょう。

  1. ① 出向契約書
  2. ② 出向通知書兼同意書


  1. (1)出向契約書に記載すべき事項

    出向契約書は、出向元と出向先の間で締結する契約書です。

    出向契約書には、以下のような事項を記載しましょう。

    • 出向期間
    • 出向中の従業員の地位、職務内容
    • 賃金(給与)
    • 退職金
    • 出向手当
    • 昇格、昇給などの査定
    • 給与などをどちらが支払うか
    • 従業員の働きぶりに関する報告方法


    上記のほかにも、出向に関して出向元と出向先との間で疑念やトラブルが生じるおそれがある事項については、出向契約書でその取り扱いを明記しておきましょう

  2. (2)出向通知書兼同意書に記載すべき事項

    出向は従業員の同意がなくても認められる場合があるものの、トラブルを避ける観点からは、やはり従業員の個別同意を取得することが望ましいといえます。

    従業員の個別同意を取得する際には「出向通知書兼同意書」を作成して、証拠として残しておきましょう
    出向通知書兼同意書には、以下の事項を記載してください。

    <出向通知書部分>
    • 出向先の会社名
    • 勤務予定地
    • 担当する予定の業務
    • 給与、賞与
    • 給与などの支払い方法
    • 社会保険、労災保険
    • 労働時間
    • 休憩
    • 休日
    • 年次有給休暇
    • 退職
    • 出向期間

    <従業員の同意書部分>
    • 出向に同意する旨
    • 日付
    • 従業員の署名、押印


    出向通知書兼同意書


5、労務管理に関するお悩みは弁護士に相談を

企業の経営者や担当者で、人事異動や労働時間の管理についてお悩みの方は、顧問弁護士との契約を検討してください。

顧問弁護士には、労務管理に関する悩みをいつでも相談することができます。
また、顧問契約の期間が長くなるほど、弁護士は社内の事情に十分精通できるため、事業の実態に合った法的アドバイスを受けることが可能になります。

とく従業員の同意を得ない出向に関しては、法令・判例上の注意点が多々あります
拒否する従業員にどうしても出向を命じる必要がある場合には、対応方針について弁護士のアドバイスを求めることで、トラブルを予防しやすくなります。

6、まとめ

出向する可能性がある従業員については、雇用契約や就業規則などで出向があり得る旨を明記することが大切です。
また、従業員が出向を拒否した場合に備えて出向規程などを制定して、出向先における労働条件の基準を詳細に定めましょう。
その際には「出向者に従前と同等以上の待遇を保証する」ということが大切です。

出向の問題を含めて、企業が適切に労務管理を行うためには、労働基準法・労働契約法その他の法令に関する正しい理解が欠かせません。
顧問弁護士と契約すれば、労働法令に関する疑問点をいつでも相談できます。

ベリーベスト法律事務所では、顧問契約サービスを提供しております。
企業経営者や担当者で、労務管理にお悩みの方は、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください

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