退職勧奨と解雇の違い|退職勧奨が違法となるケースと注意点
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令和4年度に愛知県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は7万9168件でした。
日本では解雇が厳しく制限されていますが、解雇規制を回避する目的で「退職勧奨」が行われることもあります。退職勧奨は必ずしも違法とは限りませんが、強制にわたる退職勧奨は違法となる可能性が高いことに注意が必要です。
本コラムでは、退職勧奨と解雇の違いや、退職勧奨が違法になり得るケース、退職勧奨を行う企業が注意すべきことなどについて、ベリーベスト法律事務所 豊橋オフィスの弁護士が解説します。
1、退職勧奨とは? 解雇との違いも解説
「退職勧奨」とは、会社都合により、労働者(従業員)に対して任意の退職を提案。依頼することをいいます。
また、退職勧奨は、解雇に関する法律上の厳しい規制を回避する目的で行われることがあります。
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(1)退職勧奨の目的
退職勧奨の基本的な目的は、労働者を穏便な形で退職させることです。
退職勧奨の対象となるのは、会社側が「辞めてもらいたい」と考えている労働者です。
人件費の削減や問題社員の追放など、さまざまな理由から辞めてもらいたい労働者に対して退職勧奨が行われます。
会社が強制的に労働者を辞めさせる「解雇」には、厳しい法律上の規制が設けられています。
たとえば懲戒解雇を行う際には、就業規則上の懲戒事由に該当することが必要となります。さらに、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効となるのです(労働契約法第16条)。
また、会社に解雇された労働者が不当解雇を主張して争うことも多々あります。
このような厳しい制限を回避するために、会社側としては、解雇ではなく退職勧奨を行うことで労働者を穏便に辞めさせようと試みる場合があります。
退職勧奨には原則として解雇に関する厳しい規制が適用されないので、労働者とのトラブルを回避できるという点が、会社側のメリットになります。 -
(2)退職勧奨と解雇の違い
退職勧奨の場合は、労働者が会社と合意したうえで退職します。
これに対して、解雇は会社が一方的に労働契約を打ち切り、労働者を強制的に辞めさせます。
また、退職勧奨を受けての退職は労働者の意思に基づくため、解雇に関する厳しい規制が適用されません。
これに対して、解雇は労働者の意思に反して行われるため、労働者の生活保障などの観点から、厳格な要件を満たさなければ無効とされます。
2、退職勧奨が違法になり得るケース
なお、退職勧奨に解雇規制が適用されないのは、退職が労働者の意思に基づくことを前提としています。
もし退職勧奨が強制に及んでいるとすれば、実質的な解雇とみなされ、解雇規制が適用されて違法となる可能性がある点に注意が必要です。
以下では、退職勧奨が実質的な解雇とみなされて、違法・無効となる場合を解説します。
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(1)退職しなければ解雇すると伝えた場合
会社が労働者に対して「退職しなければ解雇する」と伝えた場合、労働者としては「いずれにしても退職が避けられない」と考える可能性が高いでしょう。
解雇の場合は退職金が支払われないなどのルールが定められている場合は、退職の条件を少しでもよくするため、合意退職に応じる方向に圧力が労働者に働きます。
このような場合には、労働者が真に自分の意思で退職を受け入れたとは評価できません。実質的に退職勧奨が強制に及んでいると判断されて、解雇に関する規制が適用される可能性が高いのです。
解雇規制が適用される場合は、客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上が相当でない解雇(退職勧奨)は無効です。
ほとんどの場合、会社側としては解雇要件を満たすだけの合理的な理由を説明することが困難であるため、労働者の退職は無効となってしまうでしょう。 -
(2)圧迫面談をした場合
密室に閉じ込めて複数人で退職を迫るなど、圧迫面談のような形で退職勧奨が行われるような場合もあります。
とくに悪質なケースでは、複数人で労働者の能力不足や人格などを罵倒し、精神的ダメージを与えて退職に追い込むこともあるのです。
圧迫面談を受けた労働者としては、精神的につらい状況から一刻も早く逃げ出すため、退職に応じてしまおうと考えてしまう可能性があります。
このような状況は、退職するかどうかについて、労働者が自由に判断できる状況が確保されているとは評価できません。
したがって、圧迫面談により行われた退職勧奨は、方法がきわめて不合理なものであるとして、実質的に退職を強制するものとして解雇と同視され、解雇権の濫用として退職が無効となる可能性が非常に高くなります。 -
(3)退職に追い込むために仕事を全く与えなかった場合
労働者を退職に追い込む目的で、仕事を全く与えずに「窓際族」のような状態にし、労働者の自尊心を傷つける方法をとるケースもあります。
類似の事例として、管理職を経験している労働者にひたすらコピー取りのような単純作業だけをさせたり、「追い出し部屋」に異動させて他の労働者との交流を断ったりする場合もあるのです。
上記のような行為は「パワー・ハラスメント(パワハラ)」にあたるものです。
退職に追い込むために仕事を全く与えないなど、退職勧奨と併せてパワハラが行われていた場合は、退職するかどうかについて、労働者の冷静な判断能力を意図的に奪っていたと評価される可能性が高いといえます。
このような場合にも、実質的に退職勧奨が強制に及ぶものとして、厳しい解雇規制が適用されて違法となってしまうのです。
3、退職勧奨を行う場合に企業が注意すべきこと
退職勧奨そのものは必ずしも違法ではありませんが、方法によっては違法になり得ます。
以下では、会社が労働者に対して退職勧奨を行う際に、とくに注意すべき点を解説します。
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(1)退職を強要しない
退職勧奨にあたっては、労働者が退職するかどうかを自由に判断できるようにしなければなりません。
会社が退職を強要した場合は厳しい解雇規制が適用され、退職が無効となるおそれがあることに注意してください。
会社としては、労働者にとっての退職のメリットを伝えたうえで、丁寧な言葉で退職を促すことが大切です。
また、退職勧奨の際に使う言葉だけではなく、場所や面談者などのシチュエーションにも気を付ける必要があります。
たとえば、密室で複数の面談者が労働者を問い詰めるような形をとると、退職の強制を疑われるおそれがあることに注意してください。 -
(2)退職を目的とした配置転換等は行わない
労働者を退職させることを主たる目的とした配置転換等は、人事権の濫用として違法・無効となる可能性があります。
また、そのような配置転換等を苦にした労働者が退職した場合、後から退職の無効を主張されると、会社としては不利な立場に置かれてしまうことになります。
退職勧奨の対象従業員については、退職を促す目的を疑われるような配置転換などを行わないことが大切です。
また、やむを得ず配置転換等を行う際には、十分に合理的な理由を説明できるようにしてください。 -
(3)退職に関する合意書を締結する
退職勧奨に応じて労働者が退職する際には、退職届を提出させるだけでなく、退職に関する合意書を締結しておくことが大切です。
また、合意書には、主に以下のような事項を明記してください。- 労働者が完全に自由な意思で退職に同意すること
- 退職の条件(退職金など)
- 会社と労働者の間に、合意書に定めるもの以外の債権債務関係が存在しないこと
- 労働者は退職後、会社の名誉や評判を傷つけるような言動を行わないこと
合意書を締結すれば退職者とのトラブルを確実に防げるわけではありませんが、合意書を締結しない場合に比べて、退職の無効等に関するトラブルが発生するリスクを減らすことができます。
4、人事労務の問題は弁護士に相談を
労働者を辞めさせる際には、トラブルを防ぐために注意深い対応が求められます。
その他の人事労務管理についても、労働法のルールをふまえて適切な対応を行うことが大切です。
人事労務に関するコンプライアンスを強化し、労働者とのトラブルを未然に防ぐために、弁護士に相談することも検討してください。
弁護士は、会社の実態に合った人事労務管理の方法を提案して、労務コンプライアンスの強化とトラブルのリスク管理をサポートすることができます。
5、まとめ
退職勧奨は解雇と異なり、退職するかどうかを労働者が自由に判断します。
退職勧奨が実質的な強制に及ぶ場合は、退職が無効となるおそれがあることにも注意してください。
労働者の人員整理を含めて、人事労務管理を適切に行うためには、弁護士へのご相談をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、人事労務に関する企業のご相談を随時受け付けております。企業の経営者や担当者で、労働者を辞めさせる方法などについてお悩みを抱かれている方は、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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